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「名人といって名前が挙がってくるのは桂文楽(八代目)、古今亭志ん生、三遊亭圓生(六代目)の三人。そして人によっては柳家小さん(五代目)、古今亭志ん朝、立川談志、柳家小三治が加わるかもしれない。私が考える名人ってのは、上手いだけじゃダメなんだ。人格も加味される。黒門町と呼ばれた桂文楽は気づかいの人だったね。人に対しての愛情があったから尊敬されてた」

 そこで一拍置いた席亭は、「でもな……」と言いながら言葉をつなぐ。

「落語には名人ってのはいないのかもしれないな。だって、完璧がないから。70歳、80歳になっても、それにふさわしい芸が生まれてくる。国が認めた名人は人間国宝になるけど、俺が名人について思うのはそういうことだね」

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指定席や整理券などプロモーションは変わっても寄席ならではの雰囲気は健在

 寄席の観客席は、芸人が年齢を重ね、その芸が変容していくのを目撃できる場所なのだ。だからこそ、寄席が続いていく意味は大きい。

「伯山は馬力でもって若い人を寄席に連れてきてくれる」

 席亭は昭和から平成、そして令和へと芸を見てきたわけだが、令和最大のブームは神田伯山の登場だという。2020年2月、新宿末広亭での真打昇進襲名披露興行は連日大入り満員となり、整理券を求めて徹夜組が出るほどだった(かくいう私は始発組に勝つため末広亭近くに宿を取り、早朝から並んだ)。

「これだけのスターは、なかなか出てきませんよ。戦後を振り返ってみると、唯一、匹敵するのは(林家)三平だけじゃないかと思います。三平の人気は本当の意味で満開だった。老若男女問わず、三平が出てきただけで爆笑だったんだから。伯山は40歳でしょ。まだ若いし、七分咲きってところだと思う。これから満開を迎えるってことでしょう。伯山は馬力でもって若い人を寄席に連れてきてくれる。10年後、50歳になっても馬力で押せると思う。50歳の伯山を見るのが楽しみです」

お笑いブームを巻き起こした初代林家三平は、林家正蔵、二代目三平の父でもある。手前は次女の泰葉さん ©共同通信社

 末広亭が求めているのは、客席の元気であり、活況である。いま、元気をもたらしているのは芸協の「成金」OBだ。

 成金とは柳亭小痴楽を筆頭に、「笑点」レギュラーの桂宮治、そして神田伯山(当時・松之丞)ら11人で構成されていた二ツ目ユニット。小痴楽が真打昇進したと同時に解散したが、現在ではメンバーたちが末広亭でトリを取るなど、中堅に差しかかって寄席を盛り上げている。