ジョージアの小さな村、1人で日用品店を営む48歳の女性エテロは、日課のブラックベリー摘みの最中、思わぬ事故で死にかける。その衝撃から、エテロは自分に好意をもつ既婚男性ムルマンと突発的に肉体関係を持つ。それは彼女にとって初めての性体験だった。エレネ・ナヴェリアニ監督の『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』は、自立した生活を続けてきた女性が迎える人生の大きな転機を描く。原作はジョージアで大ヒットした小説。

「原作者のタムタ・メラシュヴィリはジョージアで有名なフェミニストの作家兼活動家で、私も彼女の大ファンです。原作小説を読んだときは、そのパワフルさに圧倒されると同時に次々と映像が頭に浮かんできて、これを映画化したいとすぐに思いました」

エレネ・ナヴェリアニ監督 © - 2023 - ALVA FILM PRODUCTION SARL - TAKES FILM LLC

 抑圧的な父と兄の死後、独身のまま生きてきたエテロ。男性経験のない彼女を、村の女性たちは憐れみ嘲笑する。

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「彼女たちはみな根強い家父長制のもとで犠牲を強いられ生きてきた人々なんですよね。だから、有害な関係性から解放され自分の意思で自由に生きるエテロを羨んでいるんでしょう。私は、エテロの自立した生き方を描くと同時に、周囲の女性が抱える問題もしっかり見せたかったんです」

 映画を見ているとエテロの堂々とした生き方に魅了されずにいられない。また印象的なのは彼女の肉体の持つ力。

「私たちはメディアで大量に見せられる姿こそ正しい『美』の形だと思い込まされていますが、世界にはいろんな人々の体があり多様な美の形がある。この映画を見る方は、痩せているとか太っているとか皺がどうだなんて関係なく、ただ美しい肉体としてエテロを受け入れてくれるはずだと信じています」

 初めての恋人ムルマンとのセックスシーンも、強烈だが美しさに満ちている。

「もう若くない2人が肉体を堂々と晒すことに驚くかもしれませんが、愛し合う2人が肉体関係を求めるのは年齢に拘らず自然なこと。もちろん裸で親密な場面を演じる俳優を尊重し、撮影前に何度も話し合いやリハーサルを重ねました。撮影監督や他のスタッフとも、脚本の段階からこれらのシーンをどう撮るかを一緒に考えていきました」

 映画のもう1人の主人公は、エテロが「私の親友で恋人」と称するブラックベリー。

「ブラックベリーは、山の奥深くや崖のような誰も近寄らない場所で勝手に自生する野生の果実です。実はどろっとした血のようなグロテスクな色で、枝には棘があり容易に人を近づかせない。でも食べてみるととても美味しくて人を幸せにする。だからこそブラックベリーはエテロにとって大事な存在なんです」

 ラストシーンは予想外の展開で、忘れられない余韻を残す。

「実は小説ではどこか悲哀を感じる終わり方だったんですが、私はもう少し希望の残る終わり方にしたいなと思い、観客がその後を自由に発想できるような形に変えました。エテロの人生を絶望的なものにはしたくなかったので」

Elene Naveriani/1985年、ジョージア生まれ。2003年、絵画専攻でトビリシ国立芸術アカデミーを卒業。2017年に初長編を手がけたあと、2021年、長編2作目『WET SAND』がロカルノ国際映画祭で上映され、最優秀主演男優賞を受賞。本作が長編3作目となる。

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映画『ブラックバード、ブラックベリー、私は私。』(公開中)
http://www.pan-dora.co.jp/blackbird/