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 一昔前のヤンキーのような風貌に、異常な物欲と偏食。西山の特異な人物像も興味深い。横領や日本一の営業実績の裏にはいくつもの手口があった。西山は自身の名を冠した軍団も作っていた……。さらに最大の“共犯者”の存在が浮上。読者には、事件の顛末のみならず、人間の業や本質としか言いようがないものが突き付けられるだろう。

「この事件そのものが人間社会を表している。そんなふうに感じたとき、これまでの自分の観点から、その先にあるものを書けるかもしれないと思いました」

窪田新之助さん 撮影・幸田 森

 西山の不正や横暴を内部告発した人物もいた。西山のかつての上司、小宮厚實だ。だが、告発書は黙殺され、小宮は左遷された。

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「連絡が取れたとき、小宮さんは肺がんで入院していました。この本は、小宮さんと出会えたことがほぼ全てです。これまでと違って、僕が知りたいという気持ちだけではなく、小宮さんのことを世に知ってもらう、それが自分の責任だと思って取材をしていました」

 たとえJAに関心がない人にも、自信を持って勧められる本著だ。一方で、窪田さんがJAについて書くのは、一区切りとのこと。

「これまでの仕事の総決算でもあり、ノンフィクション作家としてのデビュー作のようでもあると感じています。ここでJAからは離れて、他のテーマでも通用するのかを試してみたい。編集者にはいくつか提案していて、なかなか大変そうではありますが(苦笑)」

くぼたしんのすけ/ノンフィクション作家。1978年福岡県生まれ。2004年に日本農業新聞入社、2012年よりフリーに。著書に『データ農業が日本を救う』『農協の闇』、共著に『誰が農業を殺すのか』『人口減少時代の農業と食』など。