「モラハラ」をしてしまうのは男性だけではない。九州在住の荻原道子さん(仮名・30代)は、高校時代から10年以上一緒にいる温厚な夫に対して結婚前から不機嫌な態度をとり続け、時にはキレて暴言を吐いてしまうこともあった。ほかにも様々な要因が重なって、荻原さんと夫の関係は後戻りができないところまでこじれてしまったという。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、荻原さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
旦木さんは、自著『毒母は連鎖する 子どもを「所有物扱い」する母親たち』(光文社新書)などの取材をするうちに「虐待やハラスメントなどが起こる背景に、加害者の過去のトラウマが影響しているのでは」と気づいたという。
親から負の影響を受けて育ち、自らも加害者となってしまう「トラウマの連鎖」こそが、現代を生きる人々の「生きづらさ」の大きな要因のひとつではないか。ここではそんな仮説のもと、荻原さんの幼少期と結婚生活に迫る。(全3回の1回目/続きを読む)
◆◆◆
堪忍袋の緒が切れる
「もううんざりなんだよ!」
高校1年生の頃から10年以上一緒にいた夫が、初めて荻原さんに怒鳴った。
約2年前に購入した新築一戸建てのリビングのおもちゃスペースで、1人で機嫌よく遊んでいた1歳半の息子が、夫の大声にびっくりして泣き出す。
「毎日毎日毎日疑って! いつからか、お前にキスやハグを強要される度に蕁麻疹が出るようになったんだ! もう終わりだ! 離婚しよう!」
我に返った荻原さんは慌てて土下座して謝るが、もう夫には届かない。「無理無理無理……」と首を振りながら繰り返すだけ。
その夜、荻原さんは、息子を連れて母親の家に行くことにした。
荻原さんが夫の堪忍袋の緒を切れさせた原因は、荻原さんの生まれ育った家庭環境にも関係があったのかもしれない。
家庭内別居状態の両親
九州地方在住の荻原道子さん(30代)は、銀行マンの32歳の父親、パートで働いていた26歳の母親の元に、次女として生まれた。2歳上には姉がおり、両親は父方の祖父母と同居していた。
「銀行マンだった父は私たちを溺愛していましたが、祖母が母をいびるため、私が物心ついた時には、父と祖父母は1階、母と私たちは2階で生活する『家庭内別居状態』になっていました」