友人から「あなたの夫が女性とラブホテルから出てくるところを友人が目撃した」と言われた九州在住の荻原道子さん(仮名・30代)は、目の前が真っ白になった。荻原さんが男児を出産してから半年後のことだった。高校時代から付き合いのある夫は、萩原さんが不機嫌をまき散らしたり暴言を吐くなどの「モラハラ」行為をしてしまっても、優しく受け止めてくれる人だった――。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、荻原さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
夫の浮気が発覚し一時的に別居することが決まった後、自身のそれまでの態度を反省した荻原さんは、カウンセラーに相談し「モラハラ」を抑える方法を身に着けていった。一方で別居中の夫の金遣いや言動に対しては、疑問が募っていったという。(全3回の3回目/最初から読む)
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別居期間の無期限延長
別居期間解消が明後日に迫る中、自宅を訪れた夫が言った。
「今月分の小遣いをおろすからカード貸して」
ぶっきらぼうにそう言い放つ夫に対し、離婚を考えていたものの、一方で別居期間が終わるのを今か今かと待ち望んでいた荻原さんは面食らう。
「え? お小遣い? 明後日帰ってくるんだよね?」
すると夫は目も合わせずに言った。
「どうでしょうね~」
カチンときた荻原さんは、自分を落ち着かせながら「違うの?」と訊ねる。すると夫はようやく荻原さんの方を見た。
「別居が始まってから、きみは仕事を始めて余裕で育児もこなしてるし、息子くんは俺見て泣くようになったし、離婚する気でいると思ってたからそのつもりだった。俺、帰って来ても迷惑だよね? きみは息子くんがいなかったら離婚してたよね?」
荻原さんはそんな夫の発言を振り返る。
「正直、『何こいつマジで』と思いました。1人で幼い息子の面倒を見て、仕事と家事をしてきた私が、息子を連れて家を出た5月からの約8ヶ月間、どれだけ大変だったか想像もしていないんだと思いました」
内心こう思いながらも、そのときの荻原さんは素直な気持ちを話したという。
「息子くんのためだけじゃない。夫くんも息子くんも同じくらい大切だよ。私は別居が終わる約束の1月をずっと楽しみにしてた。1人で家事育児仕事、余裕なわけないよ。言わないだけで、泣きながら育児してる日だってあった。夫くんが来てくれる一瞬にすごく助けられてるよ。だけどモラハラしていた私は何も言う権利はないから、夫くんの気持ちを尊重するよ」
夫は驚き、弾かれたように言った。
「俺のこと大切なの?」