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「ハラスメントの連鎖」は止められる

 2019年7月。荻原さんは夫と話し合い、協議離婚することになった。

 夫は慰謝料を300万円支払うことにも、息子が成人するまで月に4万円支払うことにも同意した。拍子抜けするほどスムーズだった。

「私が離婚に向けた話し合いを切り出した時、もしも夫が不倫したことをきちんと謝ってくれて、『戻りたい』って言ってくれたら、私は受け入れていたかもしれません。でも、夫は私が不倫が続いていることを知っていると伝える前に、『きみの言動で気になるところがまだ色々ある』と言ったんです。私はその言葉にひどく傷つきました。私は別居してから、一度も夫にキレたりイライラしたりしていません。夫がいる時にはいつも笑顔でいるように努めてきました。それなのにまだ気になると言われるなんて……。多分、夫の中ではもう、私は『無理』な存在になってしまっているのだと思いました」

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 荻原さんは、夫と一緒に建てた家を息子とともに出て、その家に夫は戻った。夫と出会った17歳の時から、12年の月日が流れていた。

 離婚から2年後、荻原さんは、妻のモラハラが原因で離婚したという男性と出会い、現在も交際は続いている。

 元夫と荻原さんの結婚式に参列できなかった父親は、離婚した娘と孫を心配して、よく家に遊びにきてくれている。母親はシングルマザーになった荻原さんを、お金の面で時々助けてくれた。元夫とは、息子の行事の時など、数ヶ月に1度再会する。義父母はいまだに荻原さんや孫を気遣い、お小遣いをくれたりしている。

「私は夫にモラハラをしてしまった最低妻ですが、夫にも相当傷つけられたと思います。カウンセラーさんには、『どんなことをしたら人が離れて行くかわからない幼い思考のまま、結婚してしまった』『相手には相手の人生がある。あなたが縛る権利はない』と言われました。当時の私にすごく響いた言葉です。もちろん、家庭があって、幼い子どもがいるのに毎週毎週、野球やフットサルなどの趣味に出かけてしまう夫も良くないと思いますが。それにしても私は縛りすぎてたなと反省しました……」

 荻原さんは17歳の時に元夫との交際が始まり、23歳で結婚した。温厚で一度も怒ったことがない元夫の性格もあり、荻原さんは自分のモラハラに客観的に気づかないで過ごしてきた。しかし元夫の限界が訪れ、最悪の形で自身のモラハラと向き合わざるを得なくなってしまう。元夫と別居し、カウンセリングに通い、自身の不機嫌やイライラするポイントを知り、その予兆をいち早く察知することで、本格的に不機嫌になったりイライラしたりするのを防ぐことができるようになっていった。

「11月から同棲することになり、元夫と別れてから、久々に息子以外の人と一緒に暮らし始めましたが、モラハラはしていないと思います。同棲してからというもの、彼は休みの日のたびにゴルフの打ちっぱなしに行くのですが、全然イライラしません。元夫は三交替勤務で夜もいないことが多かったし、野球やフットサルや飲み会で休日も家にいないので、私はいつも怒っていました。今は私も働いていますが、一緒に暮らす彼とは休みも合うし、『2時間で帰ってくる』と言ってちゃんと帰ってきてくれるので、少しも気になりません」

 荻原さんのケースは、両親のモラルハラスメントを見て育ったために、それが夫婦のコミュニケーションの取り方だと間違った学びをしてしまっていたのかもしれない。

「カウンセラーさんに『あなたのモラハラは両親の影響だと考えられる』と言われ、当時は両親を恨みました。でも今は、育ててもらった感謝の方が大きいです。同じ環境で育っても、反面教師で幸せな家庭を築いている人はたくさんいるので、両親ではなく私の問題だなって思うようになりました」

 育った家庭環境に加え、高校から12年間、別れを経験しないままに1人の人とずっと一緒にいた荻原さんは、「この人でなければ」と依存的になっていたのかもしれない。元夫が温厚で滅多に怒らない相手だったことも、荻原さんのモラハラを悪化させる一因になってしまった。

 しかしそうした紆余曲折を経て、現在の荻原さんは、最愛の息子と同棲相手との幸せを手に入れた。おそらく元義両親に可愛がられている様子からも想像できるように、親しくなった相手に依存しすぎない術を身につければ、多くの人から愛される人柄なのだろう。

 1人の人や1つのものに依存しすぎないためには、複数の大切な人やものを作っておくことが重要だ。荻原さんは、息子や彼、両親、そして元夫や元義両親、友だちや仕事など、以前よりも大切な人やもの、居場所ができたことで、モラルハラスメントを起こすことがなくなったのかもしれない。

「ハラスメントの連鎖」は止められる。