かつて、高校時代から10年以上一緒にいる温厚な夫に対して、不機嫌をまき散らしたり暴言を吐くなどの「モラハラ」行為を続けてしまっていたという九州在住の荻原道子さん(仮名・30代)。あるとき友人から「荻原さんの夫が女性とラブホテルから出てくるところを友人が目撃した」と言われ、目の前が真っ白になったという。
この記事はノンフィクションライター・旦木瑞穂さんの取材による、荻原さんの「トラウマ」体験と、それを克服するまでについてのインタビューだ。
第2回では複雑な家庭環境で育ち、自身も「モラハラ」をしてしまっていた荻原さんと、浮気疑惑をかけられた夫との関係がこじれていく過程に迫る。(全3回の2回目/続きを読む)
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「もううんざりなんだよ!」
“ラブホテル目撃情報”から約1年が経った2018年5月。
夕方、荻原さんが1歳半の息子を連れてスーパーで夕食の買い物をした後、車で駐車場を出たところで、見覚えのある車が目の前を通過した。
夫の車だった。夫は自宅とは反対方向へ走っていった。
「え? なんでこんなところに? まだ仕事じゃないの?」
そう思っていると、夫から電話がかかってくる。
「今すれ違ったね~! 仕事終わったから、このままジム行くね!」
と普段と変わらない調子で言う。
しかし、それだけでは荻原さんに芽生えた疑いは晴れない。
「なんで? 仕事は? なんであそこにいたの?」
と矢継ぎ早に質問するが、電話は切れていた。モヤモヤしたまま家に着くと、「ジムに行く」と言ったはずの夫が帰って来た。
「ジムはまたにするよ。一度帰った時にきみがいなかったからジム行こうとしたけど、もう帰ってきたから今日はいいや」
荻原さんは泣き出していた。
「仕事は?」荻原さんが声を絞り出すと、いつも温厚な夫が声を荒げた。
「仕事終わった後、電話して『終わったからジム行く』って言ったじゃん!」
すると荻原さんは泣きながら叫んだ。
「言われてない! 前にジム行くなら言ってから行ってって言ったじゃん!」
「電話したじゃん」
「電話されてない! なら履歴見せてよ!」
荻原さんがそう言うと、夫は自分で自分のスマホを確認し、「あ! 弟にかけてたわ!」と苦笑する。
途端、荻原さんは
「そんな事ありえない! うそつき。女でしょ!」
と弾かれたように責める。