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 その瞬間、高校1年生の頃から10年以上一緒にいた夫が初めて荻原さんに怒鳴った。

「もううんざりなんだよ!」

 約2年前に購入した新築一戸建てのリビングのおもちゃスペースで、1人で機嫌よく遊んでいた1歳半の息子が、夫の大声にびっくりして泣き出す。

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「毎日毎日毎日疑って! いつからか、お前にキスやハグを強要される度に蕁麻疹が出るようになったんだ! もう終わりだ! 離婚しよう!」

 我に返った荻原さんは慌てて土下座して謝るが、もう夫には届かない。「無理無理無理……」と首を振りながら繰り返すだけ。

画像はイメージ ©AFLO

 その夜、荻原さんは、息子を連れて母親の家に行くことにした。

母親との生活

 実は以前、息子が生まれた後から自分の怒りっぽさに悩み始めていた荻原さんは、“ラブホテル目撃情報”をきっかけに、友だちと一緒によく当たると噂の占い師に見てもらいに行ったことがあった。そのとき占い師に、

「あなたは強すぎる。旦那さんにもっと優しくしなさい」

 と言われ、思い当たることが多すぎた荻原さんは帰宅後、インターネットで自分が夫にしてきたことについて検索してみたという。そこで「モラルハラスメント」がヒットし、愕然。以降、怒りすぎないよう心がけてはいたものの、長年繰り返してきた行動がすぐに直るわけがない。さらにその頃、夫の怪しい言動や、身の回りで起こる不審な出来事に振り回され、精神的に疲弊していった荻原さんは、ついに温厚な夫を限界まで追い込んでしまったのだ。

 夫との別居が始まったことを機に、荻原さんは初めて心療内科にかかり、カウンセリングを受け始めた。そこでカウンセラーに訊ねられて、生まれ育った家庭のことや、夫とのことを話すと、このように言われた。

「幼い頃に特殊な家庭環境で両親や祖父母に気を遣って育ち、充分に甘えられなかったり、イヤイヤ期や反抗期がなかったりしたのでは? その反動で、パートナーに甘えすぎてしまったり、反抗しすぎてしまったりしていると考えられます」

 そしてさらに、

「お父さんは、威圧的な態度で相手を動かすタイプのモラルハラスメント。お母さんは、お父さんからの愛を感じられないあまり、子どもに依存し過干渉になってしまったタイプのモラルハラスメントを家族にしていたようです」

 と説明された。萩原さんは言う。

「父は私たち娘を溺愛してくれていたので、直接のモラハラはありませんでしたが、機嫌が悪い時はドアを大きな音を立てて閉めるので、いつもビクビクさせられました。母は、不機嫌になるとものすごくわかりやすくて、私はそれを察して、それ以上怒らせないように気を遣っていました。それは今もそうで、夫との別居後、母の家に身を寄せた私は、すぐに後悔しました」