20年前、有名私立大学に通いながら東京・五反田の風俗嬢として働いていたミホ(仮名)。名門大学の女子大生ばかりを集めた、週刊誌上でのヌード企画にも参加していた彼女は、“快楽主義者”であることを公言し、好奇心からその世界に入ったことを明かしていた。
そんな彼女は現在どこで何をしているのか。当時からルポライターとして彼女を取材していた小野一光氏が上梓した『風俗嬢の事情』(集英社文庫)より一部抜粋して、ミホの近況について紹介する。(全2回の2回目/最初から読む)
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「後悔したことは?」「特にないです」
そこで私は気になったことを質問する。
「でも、基本的に(求めるのは)おカネではないの?」
「そん、なにではないですね、じつは……」
「興味というか、いろんな世界を見てみたいということ?」
「そこが大きかったと思う。まあ、一通り経験してみて、それを一生の仕事にするでもなく、体験入学みたいな」
「その後に、後悔したことってあった? やんなかったらよかったなあ、とか……」
「とくにないです」
私の言葉にかぶせるような即答だった。
「そりゃあ、バレたら大変でしょうけど」
「でも、バレてはないでしょ?」
「うん。バレたらワーッてなりますからぁ」
「当時は、バレることってけっこう怖かった?」
「それは気を遣いましたねえ。それに、ふつうの会社員だったらいいんですけど、公職とかは無理だと思いました」
「それは将来の仕事でってこと?」
「そうそう。政治家とか議員とか、そういうのはもう無理だわって」
「過去を探られるとまずい、と」
「ちょっと前に、ある公共的な団体で役員をやってたことがあって、そのときに、議員に立候補すればって言われたんですけど、無理って、即座に断りましたね」
「こういうSNSの時代とか、想定してなかったですから」
「そっかあ、大丈夫だと思うんだけど……あっ、そういえば裸の写真を撮られる仕事もやってたんだよね」
「そうそう。どこで出るかわからないし」
「そこはちょっと後悔ってことはない? 形に残るものをやってしまったっていう」
「そうですね。そこはある、かな。形に残る写真はマズかった、っていう……」
当時はなにも考えていなかったことが、自分の未来の可能性を狭める原因になってしまった、ということはわかる。ただまあ、それを学生時代に予見しろというのも、なかなかに酷な話ではある。そこで聞く。
「当時は全然考えてなかったんだよね?」
「そうですねえー、ははは。こういうSNSの時代とか、想定してなかったですから」
「まあ、もう、20年も前だから大丈夫だよ」
「ははは、そう思いたい……」
その昔、彼女の裸の写真を撮った方々は、過去の話として、そっとしておいてあげてください、と願う。私は話題を変えた。