20年前、有名私立大学に通いながら東京・五反田の風俗嬢として働いていたミホ(仮名)。名門大学の女子大生ばかりを集めた週刊誌のヌード企画にも参加していた彼女は、“快楽主義者”であることを公言し、好奇心からその世界に入ったことを明かしていた。

 そんな彼女は現在どこで何をしているのか。当時からルポライターとして彼女を取材していた小野一光氏が上梓した『風俗嬢の事情』(集英社文庫)より一部抜粋して、ミホの近況について紹介する。(全2回の1回目/続きを読む

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「ビックリしましたけど嬉しいです!」

 そんなミホに、20年ぶりに連絡を入れることにした─。

 これまで一切、連絡を取っていない。就職をして忙しいだろうと思っていたし、新たな生活を邪魔してはいけないとの思いもあった、と思う。そうしてフェードアウトするように、記憶の枠外に押し出していた。

 まあ、いまさら連絡を入れたとしても、8割がたは音信不通だろうなと予想しながら、当時の手帳に記していた、いまとは違う〇×〇で始まる携帯電話番号を、現在の090で始まるように変換し、通話ボタンを押す。

「はい、もしもし……」

 2コールほどで女性が出た。まさか……。

写真はイメージです ©AFLO

「あの、突然のお電話すみません。××ミホさんの携帯でよろしいでしょうか?」

「はい。そうですが……」

 一瞬だが、頭が真っ白になった。どうしようと慌てながら、必死で言葉を絞り出す。

「あの、すみません。以前、取材でお会いしたライターの小野一光と申します」

「え、あの、なんの取材でしょうか?」

 電話の向こうの声色から、こちらがいったいなにを言っているのかわからない戸惑いが伝わってくる。

「あ、あの、その昔、風俗の取材で……」

「え? ああーっ、あのときの……?」

「そうです。そのライターの小野です」

「うわーっ、ご無沙汰してます」

 それから私は、いまもライターを続けていること、当時取材した女性のその後を取材したいと考えていること、とりあえず結果はノーでも構わないので、説明のために一度会えないかということを話した。

「あ、まあ、いまは東京にいるんで、別に構わないですけど……」

 ミホは突然の、しかも20年ぶりの電話にもかかわらず、その週の週末に会うことを承諾してくれた。それは、まったく予想もしていない展開だった。