すでに連絡がつかなくなっている子もいるなかで

「でもさあ、電話が変わってないのはびっくりしたよ」

「ふふっ、よく言われるんですけど、私、1回も電話番号変えたことないんですよ」

「だって、俺の手元に残ってた番号って、〇×〇で始まる番号だったからね」

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「はははは……」

「まさか本当に連絡がつけられるとは思わなかったよ」

「ああー、いや、懐かしいなって」

 それからしばらく飲食店をやっている彼女の実家の話をした。ご両親はいまも変わらず商売を続けているとのことで安心する。いま考えると、あの当時にそこまでよく話してくれたなと思うが、かなり私生活に踏み込んだ話をしていたのだ。

 私は、ふだんもよく飲んでいるというミホのために、日本酒を注文した。片口から彼女の盃に酒を注ぎながら言う。

「それにしても、あの頃はまさか将来、40代のミホちゃんと飲むことがあるとは、想像もしなかったなあ」

「ははは、ですよね」

「20年後に再会するとは……」

「ははは、どっかで野垂れ死んでるんじゃないかな、ぐらいな。ははははは」

「だけどちゃんとした会社に勤めてたからさあ、そんなに心配はしてなかったよ」

「なんかあの頃で思い出すのは、ちょっと一緒に仕事した××大学のあの子……」

 ミホが挙げたのは、彼女と一緒に週刊誌上で女子大生ヌードを披露した女の子だ。お嬢様大学に通う正統派美女だった彼女もまた、デリヘル嬢だった。私がフランスの雑誌から日本の女子大生風俗嬢の取材を申し込まれた際に、出演してもらったりしたが、大学卒業後の行方は知れず、すでに連絡がつかなくなっていることをミホに伝えた。

「そうなんですねー」

「まあ、過去を忘れたいのかもしれないしね」

「あ、それはそれでいいと思いますよ。人それぞれだし」

『風俗嬢の事情』(集英社文庫)

「これが本当の収入なんだよな、って」

 会った日は連休初日の土曜日。この連休中は全部休みなのかと尋ねた私に、半分は仕事の予定が入っていると答えたミホは、感慨深げに声にする。

「いやーっ、サラリーマンですよ、ほんとに。自分にサラリーマンできるって思わなかったんですけどね、ふふふ。いまは絶対に最後まで勤め上げて、退職金もらってやるぞって思ってますね。私のときは、同期の女の子が五人いたんですけど、私以外は全員辞めましたから」

「まあねえ、それも人それぞれかも」

「そうですね。入社して3年目くらいまでは、給料やっすい(安い)なあ~って思ったりしてましたもん」

「そのときに、昔やってた仕事に戻ろうって気持ちは?」

「いやあ~、それはなかったよ。これが本当の収入なんだよな~っていう」

「(風俗の仕事は)大学3年のときに辞めたんだっけ?」

「いや、結局は最後の4年まで。へへへ……」