「五反田の店?」
「いや、その後に転々としてたことがあって……大塚? そこでやっぱり同じような隠れマンション(ヘルス)の仕事と、大学の最後のほうまで私、根岸(台東区)に住んでたんで、ちょっとだけ、3カ月だけ、吉原に行ったんです」
本番行為があるソープランドで
吉原といえば、とくに注釈を加えずとも、それだけで本番行為があるソープランドを指している。まったく知らないミホの過去についての情報に驚いた。
「働いてみました。でも、こーれは、体持たねえわ、って……ははは。で、就職活動を始めるときに、『すいません。就職活動あるんで』って……」
店に伝えた退店願いの部分は、青息吐息の口調で言う。
「それは4年生のとき?」
「いや、3年の2月とか3月ですね」
「そうなんだ。でも、稼げたっしょ?」
ソープランドでは、月に200万円くらいの収入を上げている女性もいることから、そういう話題に持っていった。
「いや、そうでもなかった。安い店だから。もう、あの世界はピンキリですよ」
「でも、なんでそっち(ソープランド)に行ってみようと思ったの?」
「いや、きょ、興味本位。あっは、ははははは……。たしかに興味本位。1回くらい行ってみよっか、みたいな。はははは……」
自分の若気の至りに対する、恥ずかしさも混じった照れ笑いだ。
「けっこう大変だった?」
「大変でした。あの、マットってあるじゃないですか……」
ミホは周囲を気にして小声で囁く。
「もう面倒臭い、大変、危ない、滑る~って感じなんですよ」
ソープランドではマット上に寝た男性客の上で、女性がローションを使用して体を密着させる、前戯ともいえるマットプレイがある。当然ながら、ローションを使用するため、かなり滑りやすい“危険な”状態になるのだ。
「同じ店に、ちょっと年かさのお姉さんがいたんですよ。で、『初めてなんです~』って言ったら、『頑張ってね~、大変だけど』って。それで歳を聞かれて、『22です』と言ったら、『あら、うちの娘と一緒だわ』なんて言われて、『ちょっと待って、お母さ~ん』って感じですよ。それを聞いて、これは私、この世界からは、早急に足を洗わんとならんな、と思いました。はははは」