その夜、週末の待ち合わせ場所について送った私からのショートメールに、ミホから返信があった。
〈ビックリしましたけど嬉しいです! お店了解しました。まだ行ったことがなくて気になっているお店でしたので、楽しみです〉
自分はなんて幸せ者なんだろう。心の底からそう思った。
敬語を使うようになっていたミホ
「お久しぶりでーす」
待ち合わせ場所の居酒屋。数日ぶりに会うような気軽さでミホは現れた。年齢なりに目尻に皺は刻まれているが、体型は変わらず、ショートヘアに化粧っ気のない素顔も昔のままだ。クリクリと動く大きな瞳も健在である。変わらないねえ。
まずは再会を喜び、近況を報告しあった。彼女は大学卒業後に勤めた会社にそのまま在籍していて、北海道や関西などに転勤後、いまは実家のある東京に戻ったものの、実家ではなく職場に近い町で一人暮らしをしているという。
「じつは、関西にいるときに結婚しようと思って、家を建てて住んでたんですけど、ちょっとそれが失敗して……」
さすがに大学時代とは違い、ミホは敬語を使うようになっていた。それがなかなかに新鮮だ。
「離婚したってこと?」
「いや、籍は入れなかったんですよ。一緒に住んで、向こうの両親に挨拶したりしてたんですけど……」
「いくつのとき?」
「29のときかな。向こうは××に勤める人でした。あははは」
彼女はCMのテーマソングに記憶がある食品メーカーの名を挙げた。
「まあちょっと、浮気もあったし、仕事ぶりもなんか怪しい感じがあったし」
同居期間は1年ほどだったそうだ。
「籍を入れてたら大変だったかもしれないけど、入れてなかったから、別れるのは楽っちゃあ楽でしたね。で、家も土地も私名義だったので、そのまま住み続けられたし……」
その家は、東京に転勤になったいまも所有しているとのこと。さすが大企業に勤めているだけのことはある。私は話題を変えるため、彼女について驚いたことを口にした。