本番への抵抗はなかった

「いま現在の性に対する考え方とか行動って、20代前半まで風俗の仕事をやってたことと、なにか関係してるってことはある?」

「いつも困るのは、こう……、ふふふっ、『どこで覚えてきたの?』って、えへへへ」

 照れ笑いだ。つまりエッチの際のテクニックが、半端ではないということだろう。

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「そんなんねえ、『この歳になったら、そらあしょうがないわよ』とかって言って誤魔化すんですけどね」

「やっぱ違うのかねえ?」

「なんなんですかねえ。控えめにしてるつもりなのに。あんまりそんなにねえ、技はさらさないようにしてるつもりなんですけど」

「そうだよねえ。(ソープランドでの)マットプレイをするわけでもないのにねえ」

「ははは、そうそう」

「あ、そういえばさっきソープの話が出たときに聞いてなかったんだけど、ソープといえば本番があるわけじゃん。それに関しては抵抗なかったの?」

「あまりこだわりはなかったですね。一緒やん、みたいな。あと他の“嬢”の人たちが言ってたのは、結局そっちのほうが楽だと」

「それは自分もそう思ったの?」

「うん。ただ、全体的に体力はいりますけどね。この歳になったら、もう無理だと思う」

 そこで突飛な質問を思いついた。

「いま、コロナ禍でいろんな業界が大変なことになってるけど、もしもミホちゃんの会社が業績悪化で潰れちゃうとするよね。そのときって、たとえば熟女風俗の仕事をするっていう選択肢はあったりする?」

「えーっ、ないわぁ。それはない」

「もう一生ない?」

「うん」

「終わりかあ。もうその季節は終わったってことね」

「うん。いくらでもなんかその、仕事はあると思うんで。コンビニとかスーパーのバイトでも、自分一人だったらなんとでもなりますからねえ」

『風俗嬢の事情』(集英社文庫)

プラスマイナスでいうと「イーブンですね」

「当時、風俗と訣別したのは、どういう理由だったの?」

「結局、就職ってことでしょうね。これでもう、後ろ暗いことはできないなって、それだけの話でしょう」

「やっぱでも、後ろ暗いはあるんだね」

「後ろ暗いはありますよね、それは。人に言えないって時点で」

「でもさあ、逆にその後ろ暗さに、面白さを感じてたってのもあったんじゃ……」

「そうそうそう。それもあった。裏の世界も知りたいって……。で、知ってないと、世の中に出て騙されるっていうのもあるのかなって思った。上手い言葉に乗せられて、とか」

「やってみて思ったの?」

「うん。そういうことを知らないと、世の中にはいろんな、上手いけど危険な話ってあると思うから」

「やってみて良かった、悪かった? プラスマイナスでいうとどっち?」

「イーブンですね。対価について習いました」

「マイナスな点は、人に言えないという……」

「そうそう。あとは、公職に就けないということかな。あ、逆にプラスになったことという点で、もう一つありました。ははは。日常生活で、キモい男性に対処するのが上手になったと思う。えへへへへっ。対処できる枠は確実に広がりました」

「やっぱけっこう多かった?」

「もっ、そういう人は多いですよぉ。ほんと、いろんな人がいるなーって感じ」