新たな作品に入る前に、その舞台やモデルとなる場所に赴くことも好きだという。井上ひさし作の音楽劇『組曲虐殺』への出演(2019年)に際しては、小樽を訪ね、主人公の作家・小林多喜二と自身が演じるその恋人・田口瀧子ゆかりの地をまわった。その旅のことは稽古中や本番中、幾度となく思い出し、《土や水の感触、風の肌触り。実際にその土地を踏んで感じたことは、揺るがない記憶として心の支えになってくれる》と、「赴く」と題したエッセイにつづっている(上白石萌音『いろいろ』NHK出版、2021年)。

2歳下の妹・上白石萌歌(左)と ©文藝春秋

ピアノに和歌、法律も…役づくりはみっちりやらないと気が済まない

 役づくりは時間をかけてみっちりやらないと気が済まないという。幼い頃、母親から教わったものの早々に挫折したピアノも、映画『羊と鋼の森』(2018年)で初共演となった妹の萌歌と姉妹のピアニストを演じるに際し、猛特訓の末、吹き替えなしで見事な連弾を披露している。百人一首をテーマにした映画『ちはやふる―結び―』(2018年)では古典に造詣の深い高校生を演じるため、和歌の詠まれた時代背景はもちろん、文法も一から勉強し直したという。彼女の演技に説得力があるのは、役と真摯に向き合い、人物像を裏づけるためにこうした地道な作業を惜しまないからだろう。

ドラマ『法廷のドラゴン』(テレビ東京)公式Xより

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 それでも彼女は、《役を演じるにあたって、いろんな知識を蓄えたり、その役が体得している技を練習したりしながら、いろんな人の人生を垣間見られること》が楽しいと言ってはばからない(『週刊朝日』2018年4月20日号)。現在放送中のドラマ『法廷のドラゴン』(テレビ東京)でも、将棋のプロを志しながらも法曹の道に転じた異色の弁護士を演じるとあって、《将棋と法律の勉強を面白く進めながら、撮影が始まるのを待ち侘びていました》とのコメントをドラマの公式サイトに寄せている。