もちろん、ときには役づくりに悩むこともある。橋本環奈とW主演を務めた舞台版『千と千尋の神隠し』(2022年初演)では当初、原作である宮﨑駿監督の同名アニメ映画をトレースすることに必死だったが、行き詰まってしまったという。しかし、本物の真似をしても仕方ないと思い切って映画を封印したところ、結果的に本物そっくりだと評価された。彼女はこのときのことを、《表面的なものを似せても枠組みでしかなくて。ちゃんと噛んで食べましたかというのを問われていたというか。大事な経験でした》と顧みる(『文藝春秋』2024年1月号)。
上白石萌音が目指す“最終形態”
こうして彼女のこれまでをたどってみると、とにかく真面目という印象を抱かされる。それは仕事に対してばかりではない。あるインタビューではこの先目指すものを訊かれ、《人としては、宮沢賢治の「雨ニモマケズ」が最終形態ですね。欲はなく苦にもされず、見返りを求めずに愛を注げて、自分のことも大事にできる人になりたいです》と答えている(『anan』2020年9月2日号)。その姿勢には頭が下がるが、宮沢賢治がくだんの詩に「ジブンヲカンジョウニ入レズニ」と記していたのに対し、彼女は「自分のことも大事に」としているところにちょっと安心する。
ネガティブな感情も表現に活かす
そんな上白石だが、表向きはポジティブに振る舞っていても、じつは自己肯定感が低く、本質的にはネガティブな性格だと、ことあるごとに語っている。もっとも、ネガティブな感情も、表現を仕事にしていればいくらでも活かすことができると、あくまで前向きだ。

