それまでYouTubeはほとんど見たことがなかったモエさんだが、自分の生活を少しでも変えたい一心でパオロさんからの撮影依頼を受けることにした。

取材を受けて驚いたのは、「YouTubeが仕事になる」という発見だった。

「直感的に『これなら私にもできる! だからすぐにやってみよう』そう思いました」

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そこからのモエさんの行動はまるで稲妻が走るような速さだ。パオロさんからの取材を終えたその夜、「私もYouTubeをやってみたい」と夫に相談。翌日からYouTube開始に向けての準備を始めた。

「ローカルの視点はグローバル」がヒントに

YouTubeのコンセプトを考えていたモエさんの頭に浮かんだのは、舞妓時代に、海外事業を展開する京都の実業家のお客さんから聞いて心に残っていた「ローカルの視点はグローバル」という言葉だった。

外国からのお客さんを連れたこの実業家をお茶屋で接客していて、芸妓の先輩が「私たちは、祇園という小さな町のことしか知りませんので……」と言ったときのことだ。男性はこんな話をしてくれた。

「これからグローバル化はもっと進んでいく。その時、あなたたち舞妓・芸妓はとても重要な立場にいる。海外の人はローカルの視点にとても興味があるから、あなたたちのように日本の伝統文化を担っている人たちの話にも、関心を持つだろう。英語がしゃべれなくてもいい。でも、自分たちのやっていることに自信を持ちなさい。自分たちが普段当たり前に思っている『普通のこと』が、海外の人にとっては実に興味深い」

この言葉を思い出し、毎日作っている料理がコンテンツになると気づいたモエさん。家庭を訪問し夕飯のメニューを紹介するテレビ番組「突撃!隣の晩ごはん」のように、普通の人の食卓をとりあげる番組をイメージして撮影を始めた。

日本の食卓を海外に発信する「Kimono Mom」誕生

海外の視聴者を意識し、日本らしく、かつ自分のアイデンティティーにもつながる「着物」と、育児をする自身をそのまま表現する「ママ」を組み合わせて「Kimono Mom」をタイトルに取った。