このIRという用語そのものに、胡散臭さがありました。カジノ施設の他に国際会議場やホテル、レクレーション施設、展示施設、ショッピングモール、劇場、シネマコンプレックスを含んだ複合施設を意味します。IRにも、統合型リゾートという呼称のどこにも、カジノという言葉は見えません。これも、「ギャンブル等依存症」の「等」でパチンコ・パチスロを覆い隠した、国家公安委員会と警察庁の手口と同じです。

 もうひとつ、このIRは民間事業者が運営します。つまり、江戸時代でいえばヤクザに賭場と旅籠を任せるのと同じなのです。公営ギャンブルやパチンコ・パチスロには、まがりなりにも所轄する省庁がありました。しかしIRの中のカジノには所轄する役所はなく、内閣府が関与するのみです。国交省の関与はつけ足しです。関与ですから大きな口は利けません。ただ裏金に等しい何かの利益を独占するだけでしょう。それでもうまい汁になります。

 そのうまい汁を狙ったのが、日本維新の会でした。橋下大阪府知事が、「大阪は汚い物を含め、何でも引き受ける」と発言したのを覚えています。その後、2013年に、カジノ解禁の法案を提出しました。

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 しかし2014、2015年と、いずれも法案は採択されず、廃案になりました。

 とはいえ、日本維新の会のカジノへの執念は消えません。虎視眈々と、ほとぼりが冷めるのを待っていたのです。いったん走り出すと、もう止まらないのが日本人の特徴で、引き返せません。

異例のスピードを見せた「安倍首相のカジノ法案」

 一方で安倍首相も諦めてはいませんでした。大統領に当選したばかりのトランプ氏に会いに行ったのが、2016年11月17日です。大統領に就任する前です。そのあとすぐトランプ氏をトランプタワーに訪ねたのが、ソフトバンクの孫正義社長でした。不思議なことがあるものだなと感じたのはそのときです。

 実は孫社長はトランプ氏の恩人だったのです。トランプ氏はかつて米東海岸で、友人のユダヤ人シェルドン・アデルソン氏と同じくカジノ・ホテルを経営していました。しかし不況で倒産寸前のところを、2人とも孫社長に金銭面で助けられたのです。

 これで2人は命長らえて、アデルソン氏はマカオやシンガポールでカジノを経営して大成功を収めます。イスラエルでも無料の日刊紙を発行し、旧友のトランプ大統領の大口献金者になります。

 ですからトランプタワーでの会談で、トランプ氏は安倍首相に、「カジノがないのは先進国で日本ぐらいだ。世界の120ヵ国以上が認めている。造りなさい。親友のカジノ王を紹介するから」くらいはもちかけたはずです。

 安倍首相はすぐにカジノ法案を提出、衆議院の内閣委員会で審議が開始されたのが11月30日でした。審議時間6時間で12月2日に可決され、12月6日に衆議院本会議に回されます。これは臨時国会の延長によるもので、すんなり通過します。すぐに参院に送られ、12月15日の未明に衆院本会議で可決されます。それまで度々廃案になってきたことを考えれば、法案提出からわずか2週間という電光石火の早業でした。