「もし真実がわかり、息子が本当に事件に関わっていたとしたら…」
話しながら剣英さんの目に涙が浮かぶ。
「この事件に息子が関わっているかもしれないと聞かされてから、妻は心臓の病気で2回病院に運ばれました。でも、日本の被害者のご家族はもっと悲しいだろうと思っています。
もし息子がこの事件に関わっていたとしたら、私はこちらの家族を代表して、日本の被害者の方々に、大変申し訳ないことをしたと謝りたいと思います」
剣英さんの横にいる楊の母親も涙を拭きながら、何度も頷く。剣英さんは続けた。
「うちの子はいい子だと思っていますが、日本に行ってからどういう人と接触しているかはわかりません。父も母も遠くにいるので、目が届かない状態なのです。私は息子が日本に行く前に3つのことを言いました。1つは、日本でまじめに勉強して、まじめに働いて、いくら辛いことがあっても辛抱すること。これは、生活が苦しくても耐えるようにという意味を込めて言いました。
2つ目は、よく勉強しなければいけないということ。3つ目は、日本の法律はきちんと守らなければならないということです。繰り返しになりますが、息子がどうしてこのようなことになってしまったのか、父母として原因が理解できません」
そう言うと、少し間をあけて剣英さんは断言した。
「しかし、もし真実がわかり、息子が本当に事件に関わっていたとしたら、厳しい処分も納得します。死刑になっても仕方がないと思っています。ただ、父母として、最後まで自分の子供のことは信じたいです」
その言葉は、親が子を思う心情に国境がないことを感じさせるものだった。
楊家を後にすると、王の実家へ
私は取材に対応してくれたことへの感謝を述べて楊家を後にすると、車でさほど離れていない王の実家を目指した。
楊寧の母親によれば、息子が日本に留学してすぐの頃、彼女と王の母親が朝の水泳で知り合い、その約1年後に王亮も日本へ留学することになると、その縁で息子同士が福岡で連絡を取り合うようになったという。
レンガ造りの低層住宅が並ぶ一角に王の実家はあったが、いくら呼びかけても返事はなく、建物内に人の気配はない。
近隣住民に話を聞きに行った通訳が、私のもとに戻ってきて言う。
「ダメですね。誰も話をしたがらない。相手をしてくれた人の口ぶりだと、近所の人はみんな事件のことを知っているようです。だから関わりたくないのでしょう」
それもまた、事件の周辺ではよくあることだった。
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