息子がこの事件に関わったとは、どうしても信じられない

 息子の寧が起こした事件はどうやって知ったのかを尋ねた。

「その情報は日本の記者から聞きました。それはもう、大変驚きました。息子は中国の短期大学に行って、それから日本の学校に行きました。日本の進んだ文明社会や技術などを勉強するためにです。私にしても、息子のために鍛錬になると思っていました。日本語をよく勉強して、中国に帰ってからいい仕事をしてほしいと、期待していたのです」

 剣英さんは絞り出すように言う。

「私は月収1000元(約1万6000円=当時、以下同)しか貰っていない建築会社の社員です。しかし留学には十数万元(160万円以上)かかります。私は自分の一生を賭けるつもりで親戚から借金をし、息子を日本に送り出しました」

 そこまでを口にすると、深いため息をつく。

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「私はうちの息子がこの事件に関わったとは、どうしても信じられないのです。息子は小学校以来、学生時代に一度も悪いことをしたことがありません。それに我が家では、非常に厳しくしつけを行っていました。たとえば、学校が終わると寄り道はせず、時間通りに家に帰るように決めています。

 

 また、悪い子と付き合わないように、インターネットカフェにも行かせず、自宅にパソコンを買い、接続を制限しました。悪い習慣をつけないようにしようと、考えていたのです……。息子は親の言いつけをよく守る、親孝行な子です。人情のわかる子です。おいしい食べものがあれば、残してお母さんに食べさせますし、無駄遣いもしません……」

節約して息子をなんとかして支えようとしていた家族

 剣英さんは立ち上がると、台所の棚から野菜の皮を剝くためのピーラーと油差し、猫の絵が浮き出たベルを持ってきて、目の前のテーブルに置いた。

楊家取材 ©︎小野一光

「(寧が)日本に行ってから3年になりますが、これまで、年に1回は中国に里帰りをしていました。そのときには、安いものですが、必ず親戚や家族にお土産を買ってきています。たとえばこの野菜の皮剝き(ピーラー)は、おばあさんのために買ってきました。あと、子供のためにオモチャを買ってきたりとか、本当に……日本のお菓子だとか、いろいろ持って帰ってきてくれました」

 そう説明する声が徐々に涙声になる。

「私たち父と母は、日本で苦労している息子を全力で支えようと考えていました。息子は日本でアルバイトをたくさんやって、3、4時間しか寝られないことがあると聞いていました。そんな息子をなんとかして支えようとしていたのです。節約して、自分たちがおいしいものを食べなくても、子供のためになることをしたいと考えていました。

 

 これは世界中の両親はみんな同じ気持ちのはずです。こんなに一生懸命な思いでお金を出して、勉強をさせて、そんな子供が悪いことをするはずがないと信じたいです……」