かくして柵木は勝利した。「柵木四段は決着局となる大一番で堂々と会心の内容の将棋を指されたことが素晴らしいと思いました」とは対局を見た上野四段の感想である。

 本局は「相手にとって大事な一局ほど全力を尽くさなければいけない」という「米長哲学」を柵木が実践した形となったが、「哲学があるからというのではなく、棋士にとって負けていい対局はありません」と断言する。

全力でぶつかりあい、楽しみながら指せた

 西山との一戦について、柵木はこうも語った。

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「客観的に見て、西山さんと私の棋力はほぼ五分だと思うんです。そのような相手が全身全霊で向かってきて、こちらも全力でぶつかる。そういう将棋を指せるのが楽しいんです。将棋を楽しむ心は常に持っていたいと思いますし、実際、楽しみながら指せたと思います」

 

 ただ、このような勝負をもう一回指したいかと問いかけると、

「どちらかというとやりたくない側ですかね。三段リーグを指す苦しさに似ていると思います」

 再び棋士編入試験が行われて、その時に試験官を務めることになるであろう棋士へは「全力で立ち向かえば、勝っても負けても納得できる」という言葉を伝えたいという。

写真=石川啓次/文藝春秋

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