試験をきっかけに心を入れ替えた
柵木は本局について「成長する機会を作ってもらえた」と、まったくメリットがなかったということはないと語ったが、その言葉に甘えるだけではいいはずがない。
試験の翌日、増田裕司七段は柵木と会う機会があった。「棋士になってもっとも勉強しました」と言われたそうである。
柵木に改めて聞くと、
「棋士になって2年ほど経ちますが、満足のいく結果は残せていません。そのことに納得いかないかと言うと、そう言えるほど将棋に取り組んできたわけではなく、これでは何のために棋士になったのかと。試験をきっかけに心を入れ替え、研究会など将棋を指す機会も増やし、日々の生活から改めることができました。棋士になってからは最も取り組めたと思います」
ということだった。三段時代と同じくらいかとも言っていたので、その頃を思い出したのだろうか。
続けて「公式戦でも結果を残して、継続してやっていければ」とも語った。
試験官に対する感謝を述べる西山の姿
西山は夢にあと一歩のところで届かなかった。それでも終局直後に行われたインタビューでは、その第一声で試験官を務めた5人の棋士に対する感謝を述べた。
「難しい立場の中、5人の試験官の方々には、公式戦もあってお忙しい中、あまりメリットもないような戦いということで、葛藤も拝見していたんですが、それぞれの考えで向き合ってくださったことにはすごく感謝しています」
その姿に感動したファンは多かった。
西山の言葉をもっとも近いところで聞いていた柵木は「ビックリしました。私なら絶対にそんなことは言えません。勝ってならともかく、負けた直後に言えるのはすごいです。終局直後で頭が働いていない部分もあったのですが、そこだけは印象に残っています」と振り返った。ただ続けて、終局直後の西山を直視は出来なかったとも語った。
インタビューのあとは感想戦に。この時点で報道陣のカメラはほとんど柵木の背から西山に向かっていた。混乱を避けるため、感想戦のカメラは数グループに分けての入れ替わり撮影となっていた。柵木の顔にカメラを向けたのは専門誌のカメラマンなど、わずかしかいなかったように思う。西山の兄弟弟子である清水航三段と藤井奈々女流初段が感想戦を見守っていた。