史上初の女性棋士誕生なるか!?
将棋の“棋士”と“女流棋士”は制度が違い、藤井聡太七冠に代表される“棋士”になるためには、はるかに高いハードルが存在する。そして、これまで女性で棋士になれた者はいない。西山朋佳女流三冠が挑む棋士編入試験五番勝負第2局が、10月2日に東京・将棋会館で行われた。第1局に勝利した西山は、あと2勝で合格を勝ち取ることができる。試験官には若手の俊英たちが揃う。果たして編入試験の行末に、勝利の女神は微笑むのだろうか――。
コロナに感染するも、予定通りの対戦を決断した理由
対局開始時間が迫っていた。しかし、試験官の山川泰煕四段は、まだ現れていない。取材陣が、さりげなく時刻を確認している。
下座に座った西山朋佳女流三冠は、時折咳き込むとハンカチを口に当てた。明らかに体調が悪いことが感じられた。編入試験は持ち時間が各3時間で、使い切れば一手60秒の秒読みになる。昼食休憩を挟んで、終局まで7時間近くを戦わねばならない。
この日から5日前、西山が新型コロナに感染し、療養のため白玲戦第4局が延期になったことが発表された。報道関係者の多くが編入試験も延期されることを予想したが、西山が決断したのは予定通りの実行だった。
その理由として、彼女は編入試験と並行して女流タイトル戦の白玲戦を戦っており、さらに女流王将戦と女流王座戦も始まろうとしていた。トリプル・タイトル戦の相手はいずれも福間香奈女流五冠である。その福間は妊娠を公表し、11月中旬より休養することになった。そのため両者の対局スケジュールはかつてないほどの過密を呈して、西山は日程の変更が難しいと判断した。
開始前4分を過ぎて、山川が入室した。一礼をして、足早に取材陣のカメラの前を通りすぎる。筆者が山川を見たのは初めてだった。小柄だが床の間を背に座した姿には、周囲の視線に動じない雰囲気があった。
定刻になり、先手番に決まっていた西山は初手に五筋の歩をついた。振り飛車党が中飛車を指す上で有力な手であり、研究家として知られる山川はそれを想定していただろう。しかし、彼はすぐに盤上に手を伸ばさなかった。口元を強く結び、盤を見下ろしている。やがて、ゆっくりと飛車先の歩を持つと、指先に力を込めて打ち下ろした。