「彼女は勝ってもおかしくないくらいの自信を持っていたんじゃないかと思います。女流棋士一本になってから、伸び伸びと指している印象がある。対局するにあたって、西山さんの棋譜を調べたのですが、同じやり方を2戦連続では使わない。的を絞らせないようにしている。序盤も緻密になっているのを感じました」
女性の奨励会員が少ない理由
昭和の時代には、将棋は勝負が厳しく女性には向かないと言われた。しかし、頭脳ゲームにおいて性別で大きな差があるとは考えにくいので、競技人口の圧倒的な差が男性に適した印象を強くさせていたのだろう。
現在も奨励会には女性会員は少なく、今年10月の時点で約200名の中に女性は1人しかいない。歴史的にみてもこれまで奨励会に在籍した女性は21人だけである。女性の奨励会員が少ない現状について、森下はこう話す。
「今年の奨励会試験に竹内優月女流2級が合格しましたが、東西を合わせても女性は彼女だけという状況です。受験する女の子が、ほとんどいない。奨励会を目指す子たちが入る研修会で、B1クラスまで上がれば女流2級としてデビューすることができますから、“棋士”の道を目指すよりも、“女流棋士“としてやっていく方が賢明だと判断している人が多いのではないか」
かつては女流棋戦が少なく、賞金や対局料も棋士の公式戦とは大きな開きがあったが、現在ではだいぶ見直されてきている。女流タイトル戦だけでも8棋戦あり、最高ランクの白玲戦のタイトル料は棋士のタイトル戦と並ぶ金額だ。またABEMAやイベントなど、女流棋士が出演する仕事が増えている。
「女性が奨励会を受けないというのも、今は立派な選択の一つだと思います。やはり奨励会に入っても、棋士になれない人の方が圧倒的に多いわけですから。もし私に女の子の弟子がいましたら、女流の道を勧めると思います」
現在の女流棋界は西山と福間が二強時代を築き、タイトルを分け合う状況が続いている。それでも西山も福間も棋士の道を目指した。森下は言う。
「挑戦して女性として初の棋士になりたいという思いは、2人ともすごく強いでしょうね。自分が初の女性棋士になりたいという気持ちは。今でも棋士の公式戦に出場していますが、あくまで別枠での参加です。まったく同じ立場、条件で藤井聡太七冠や羽生善治九段と対戦するというのは、西山さんも福間さんも憧れなのではないでしょうか」
写真=野澤亘伸