栄枯盛衰の激しい性風俗業界のなかで、山本は毎回現場に赴きリポートした。そして驚くような斬新なサービスを目の当たりにすると決まって飛び出したのが、「ほとんどビョーキ」というフレーズ。インパクト十分で、流行語にもなった。

性風俗にもいろいろあるが、なかには「よくこんなことを思いついたな」という奇想天外な、ある意味常軌を逸したものも少なくない。だがそこには共通して人間のむき出しの本性があらわになる。そしてその姿を目の前にして、あきれながら妙に感心したりもする。

だから「ほとんどビョーキ」はれっきとした褒め言葉。その根底には山本自身がエロにかかわる人間である自負、そして一流の洞察力に裏づけられた共感があった。

ADVERTISEMENT

実際、「社会学」を謳ったこの山本のコーナーは、どんな教科書にも載ることのない現代社会の貴重かつ生々しい記録だった。

権力に対する無言の抵抗

リポートしたなかで最も有名で反響も大きかったのは、ノーパン喫茶だろう。

ノーパン喫茶とは、ウエイトレスが下着をつけずに接客する喫茶店のこと。上半身裸で腰にはエプロンをつけているが、パンツは身につけていない(ストッキングは履いていた)。そして床は鏡張り。ただ喫茶店なので、客はお気に入りの女性を指名はできるが、基本的にはコーヒーを注文して飲むだけ。1杯1000円で30分だけ店内にいられるというようなルールだった。

スターも生まれた。新宿歌舞伎町のノーパン喫茶「USA」で働いていたイヴである。静岡出身のイヴは東京で遊ぶための交通費欲しさで時給の高かったこの仕事を始めた。当時2時間働いて6000円。端正な顔立ちでスタイル抜群だったこともあり、たちまち大評判に(後にポルノ映画やAVにも出演した)。常連客のなかには、2000万円が入った預金通帳を見せてプロポーズした男性もいたらしい(『現代ビジネス』2016年12月17日号)。

山本晋也は、ノーパン喫茶に入るため並んでじっと待っている男性たちを見て、「権力に対する無言の抵抗のようなもの」を感じていた。過激な性風俗には摘発の恐れが常につきまとうが、「『捕まえられるものなら捕まえてみろ』と訴えていたような気がする」とそのときの印象を振り返る(同記事)。