ワイドショー番組「トゥナイト」(1980~94年、テレビ朝日系)は、いまでも「伝説の番組」として語り継がれている。どこがすごかったのか。社会学者の太田省一さんは「政治も事件も風俗もぎりぎりのところを攻めた。今のテレビにはない強烈なパワーがあった」という――。

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番組発の流行語「ほとんどビョーキ」の意味

「『トゥナイト』見たーい」。昨年話題を独占したドラマ『不適切にもほどがある!』の阿部サダヲのセリフだ。これに「懐かしい」と思ったひとも多いはず。『トゥナイト』と言えば、往年のお色気深夜番組の代表格。だがそこには下世話な興味だけでなく、実は真面目なジャーナリズム精神もあった。ここで改めて番組の魅力と時代を振り返ってみたい。

「利根川さん、ほとんどビョーキですよ」。サングラスにちょび髭、アポロキャップを被ったリポーターの中年男性がカメラに向かい、言葉とは裏腹に楽しそうな表情で語りかける。

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そのリポーターの名は山本晋也。れっきとした映画監督である。代表作として「未亡人下宿」シリーズがあるピンク映画の巨匠。赤塚不二夫やタモリとも親しく、彼らが出演し、所ジョージが主演した『下落合焼とりムービー』(1979年公開)の監督も務めた。『タモリ倶楽部』などにもよく出演していた。

一方、「利根川さん」とは『トゥナイト』の司会者である利根川裕のこと。元編集者で作家に転身した。いつも温厚でにこやか。山本晋也には「ねえ、カントク」などと名前ではなくなぜか職業で呼ぶので、並み居る映画界の巨匠たちを抑えて当時は日本一有名な映画監督になっていた。

風俗レポートは真面目な社会学だった

『トゥナイト』は、1980年に始まったテレビ朝日の深夜番組。基本は情報番組でお色気だけが売りではなかったが、深夜ということで最新性風俗の情報が目玉になっていた。その代表的コーナーである「中年・晋也の真面目な社会学」のリポーターが、ほかならぬ山本晋也だった。