心を晴れやかにするスッキリ終活のススメ

終活の大切さはわかっていても、どうにも重い腰を上げるきっかけが見つからないーー。無理なく終活を進めるコツについて、相続や終活に詳しい行政書士の東優さんに聞きました

おひとりさま終活はやるべきことが多い

【この人に聞きました!】
行政書士 東 優さん
行政書士法人優(ゆう)総合事務所代表社員。相続分野の案件実績は1000件を超える。実務経験を基に遺言や相続、後見に関する講演や執筆活動を行い、終活に関する情報発信に積極的に取り組んでいる。監修書に『一番わかりやすい エンディングノート』(リベラル社)など。
【この人に聞きました!】
行政書士 東 優さん
行政書士法人優(ゆう)総合事務所代表社員。相続分野の案件実績は1000件を超える。実務経験を基に遺言や相続、後見に関する講演や執筆活動を行い、終活に関する情報発信に積極的に取り組んでいる。監修書に『一番わかりやすい エンディングノート』(リベラル社)など。

「男性に比べると女性のほうが終活への意識が高く、行動に移す方も多いですね」

 行政書士として数多くの終活をサポートしてきた東優さんは、女性の終活についてこう話す。終活といえば人生の締めくくりに行うイメージがあるが、東さんの事務所では、40代、50代のシングル女性からの終活相談も多く受け付けてきたという。

「特に子どもや配偶者のいない方の場合、自分自身で万が一に備えておかなければいけないという意識が高いのか、早い段階から準備をしている印象です。実際、おひとりさまの終活はしっかり取り組もうとすれば死後事務委任契約など専門家への依頼が必要なことが多くなります」と東さん。

 シングル女性だけではない。男性よりも平均寿命の長い女性の場合、既婚者であっても配偶者との死別や子どもの独立などによって将来的にはおひとりさまになる可能性がある。

 ひと言で終活といっても、家財道具の断捨離、葬式やお墓の手配、遺言の作成などやるべきことは多岐に渡る。東さんは終活における課題を大きく、生前の「身体の不自由・認知症」「終末期医療」と、死後の「葬儀・お墓」「相続」に分類する。

「これらすべての課題をこなす必要はありません。やるべきことは一人ひとりの環境やライフステージ、価値観によって変わります。まずは現在の自分にとっての課題を整理しましょう」

エンディングノートに「目を通す」だけでもいい

 とはいえ「将来の不安は何か」という漠然とした問いかけでは、具体的な課題を見つけることは難しい。そこで東さんは、エンディングノートの活用を勧める。

「はじめはエンディングノートにざっと目を通すだけでOKです。一般的なエンディングノートは終活で考えるべき事柄が網羅されているので、眺めるだけでも終活の全体像をおおよそ把握できます」

 終末期医療や認知症になった場合の財産管理の方法などは、その重要性ゆえにエンディングノートへの記入も後回しになりがち。しかしここでつまずくと、終活全体が停滞してしまうかもしれない。

「すべての項目を埋めようとせずに、人生の振り返りや、大切な人への連絡先の記入から始めてみてください。これまでの自分の歩みや人とのつながりなら記入しやすいですし、それらを振り返ることで、自分にとっての終活の課題が見えてきます」と東さん。

「エンディングノートは、終活を通じて考えたことや対策を書き留める“メモ帳”です。法的効力のない“メモ帳”ですから、記入は鉛筆で構いませんし、後から消したり書き足したりも自由です。気負わずに書き進めて、違うなと感じればいつでも修正できます」

自分の代弁者となる「キーパーソン」を決める

 終活は、病気で意識がなかったり、自分がこの世にいないことが前提になる。東さんは「終活は自分に代わって思いを実行する『キーパーソン』が不可欠です。個別の対策にばかり注目がいきがちですが、キーパーソンの設定も重要な備えの一つと考えてほしいですね」と話す。

 多くの人はキーパーソンとして同居の家族を選ぶが、遠方の親族、友人・知人もキーパーソンになり得る。

「例えば交通事故に遭った時に自分のところに駆けつけて身元引受人になってくれる人が有力なキーパーソン候補となります」

 ほとんど交流のない親族よりも近くの友人にキーパーソンを頼みたいという人もいるだろう。同年代の友人の場合は、自分と同程度に健康上のリスクを抱えていることになるが、東さんは「リスクよりも、まずは信頼できる人かどうかを大切にしたほうが良いでしょう。そのうえで、もしも友人の健康面に不安を感じるなら第二キーパーソンを決めておくとより安心です」と助言する。

 親族や友人が近くにいない場合は、NPO法人などの専門業者が提供する身元保証サービスを利用してもいいだろう。周囲に面倒をかけたくない人は、こうしたサービスを活用してキーパーソンを決めておくことが肝要だ。

終活のキーパーソン候補

「終活ツール」を活用し事前対策を講じる

 キーパーソンは本人の思いを理解する代弁者だが、すべての権限を委ねられるわけではない。財産や生命に関する事柄は、元気なうちに自分自身で対策を講じておく必要がある。

「例えば認知症になった場合の財産管理に不安があるなら任意後見契約、死後のさまざまな手続きを代行してもらうための死後事務委任契約、死後の財産の引き継ぎ方に希望があるなら遺言の作成……といった具合に、終活の課題に対応する『終活ツール』があります。各分野の専門家と相談しながら、最適なツールを活用しましょう。その結果をエンディングノートに書き留めておくと、いざという時はキーパーソンが専門家に橋渡ししてくれます」

「いつかは終活を」と考えながら先延ばしにしている人は多いが、認知症などのリスクを考えれば、早めに準備をした方がいい。一度エンディングノートをまとめて整理しておけば、後は情報のアップデートで済む。

「終活とは『老・病・死』に対して、自分の考えを反映させるための準備です。どんな人でも老いや病気、死を避けることはできませんが、終活を通じてその“あり方”を選ぶことはできます。終活は最期まで自分らしく生き、周囲の人を助けることにつながります」

人生を社会貢献で締めくくる「遺贈寄付」という選択肢

 遺産の分配に関してはエンディングノートではなく、法的効力のある遺言書を別途作成した方がトラブルが生じにくい。遺言の機能は多彩で、相続を円滑にするだけでなく、財産を相続させる(または遺贈する)代わりにペットの世話を頼んだり、財産を公益団体などに寄付する「遺贈寄付」の実現にも活用できる。

 特におひとりさまで法定相続人となる親族がいない場合、遺言を作成しないと、残った財産は国に納められることになる。それならば自分で使い道を決めたいと遺贈寄付を選ぶ人は多い。お世話になった地域や自然への恩返しや、恵まれない子どもたちへの支援、スポーツや芸術の振興など、自分の価値観にあった寄付先を選ぶことができ、人生最後の社会貢献として注目を集めている。