――トランプ大統領には、ウクライナの戦争を本気で終わらせる意志があるのですか?
東野 自分の手で止めさせる、と考えているのは確かだと思います。ただ、ウクライナの主権や領土一体性をキチンと守った上での「正しい」平和的解決になるかどうかは分からない。ロシアも取りあえずトランプ大統領の顔を立てて一旦停戦したうえで、停戦中に軍事力を再編成して5年後にまた侵攻するという可能性は十分に考えられます。2014年および2015年に締結したドンバスの停戦のための「ミンスク合意」も、ロシアは簡単に破りましたからね。
――ウクライナ側の希望はどこにあるんでしょう。
東野 ウクライナのゼレンスキー大統領が声を大にして訴えているのは、NATOへの加盟です。もちろん理想は22年の侵攻前の領土を取り戻すことですが、それが出来るかどうかは別問題。現在占領されている東部4州の返還にロシアが応じるとはとても思えません。世界のどの国も認めていませんが、ロシアの法律では占領地はロシアということになっていますし、返還するとなったらまたロシアの法律を変えなければならないので、現実的ではないと思います。
だからとても残念だし悔しいことではありますが、ウクライナは一定の領土的妥協を強いられる。ただゼレンスキー大統領は、東部4州が返還されなくてもいずれ外交努力で取り戻すと言っているので、停戦で一番痛みが少ないのはNATOがウクライナの加盟を承認することだと思うんですよ。
「そもそもウクライナをNATOに加盟させるべきだと言ったのは…」
――ウクライナの声は、なぜNATOに届かないんでしょうか。
東野 アメリカ、ドイツ、ハンガリーが加盟に反対しているからです。NATO加盟の条件は、全会一致。ただ私は、これは政治力でクリアできるんじゃないかと考えています。そもそも、ウクライナをNATOに加盟させるべきだと言ったのは、米国のブッシュ大領領(当時)だったんですよ。2008年のブカレストNATO首脳会議の時の発言で、その時はフランスやドイツの「そんなことをしたらロシアを刺激する」という反対を押し切って、ごり押しで宣誓文に加盟の一文を入れた。だから今になって米国が反対するのはおかしな話でもあるんです。
――ウクライナを加盟させると、戦争がエスカレートしてしまうと米国は考えているんでしょうか。
東野 これはNATOとロシアの戦争じゃない、というのがアメリカの一貫した説明です。ウクライナを支援はしているけど、ロシアと闘っているわけではないという姿を明確にしておきたいんです。ただプーチンは、簡単に落とせると考えていたウクライナにこれだけ苦労している言い訳として、ウクライナのバックにはNATOがいて、ロシアはそのNATOと闘っているという論法を打ち出している。
だからNATOから見たこの戦争の位置づけと、ロシアから見たそれがまるで違う。