NHK在職中から、『文楽のツボ』『僕らの歌舞伎』などを著し、古典芸能解説者として活躍する葛西さん。来る7月8日、山口県長門市で行われる近松門左衛門作『出世景清(かげきよ)』の人形浄瑠璃「文楽」での復曲・通し上演の当日解説を務める。

「長門は近松の生地とされる土地の一つ。会場のルネッサながとは、“船底”“文楽廻し”など人形浄瑠璃専門の舞台装置を持ち、近松に特化した演目を上演しています」

 平家滅亡後、行方不明となった悪七兵衛景清は、勝者・源頼朝の命を狙う……『出世景清』は近松門左衛門がコンビを組んだ義太夫節の祖・竹本義太夫に初めて書き下ろした作品で、近松自身の出世作でもある。最初の〈熱田の段〉から、景清が我が目を抉(えぐ)り出すラストの〈清水寺の段〉まで、文楽での未上演部分を鶴澤燕三(えんざ)が完全復曲した。

ADVERTISEMENT

 人形に桐竹勘十郎、吉田玉男、三味線・鶴澤燕三、太夫・豊竹呂勢太夫(ろせたゆう)等、文楽の当代随一の演者が顔を揃える文字通りの意欲作。

「浄瑠璃は今とは違うことばですし、伝統芸能を見ることは簡単ではありません。でも、一度体験すると江戸庶民の教養がいかに高かったか、わかりますよ。難しいからこそ、見るたびに発見があります。今回は景清のダイナミックな『牢破り』と景清のさらし首が清水観世音の身替り首になるという人形のスペクタクル演出も楽しみで、今からわくわくしています(笑)」

INFORMATION

第6回 ながと近松文楽
問い合わせ・チケット予約 ルネッサながと TEL 0837-26-6001
https://www.renaissa-nagato.jp/

人形浄瑠璃「文楽」では、舞台右手に張り出した「床(ゆか)」に物語を語る太夫(たゆう)と三味線弾きが座ります。(2017年第五回「ながと近松文楽」公演より)©HAJIME WATANABE
文楽では人形遣(つか)いが、一体の人形を三人で遣うのが特徴です。(2017年ながと近松文楽公演より)©HAJIME WATANABE
『夏祭浪花鑑(なつまつりなにわかがみ)』の一場面。大阪の暑い夏と侠客(きょうきゃく)の世界を描いた世話物の傑作で、主人公・団七九郎兵衛(だんしちくろうべえ)の着物の柿色の太い格子柄は「団七縞(じま)」と呼ばれて、江戸時代に大流行しました。(2017年「第五回ながと近松文楽」公演より)©HAJIME WATANABE
(2017年「第五回ながと近松文楽」公演より)©HAJIME WATANABE
ルネッサながとのように、文楽の舞台に使われる「舟底」という舞台機構と、太夫・三味線が座る「床」や「本花道」を備えた劇場は全国でも珍しい。(2017年「第五回ながと近松文楽」公演より)©HAJIME WATANABE