「おまえのいうことを聞いて、韓国に行こう」力道山に韓国訪問を決意させた人物とは?

 それでも力道山は、行くべきかどうか、なお悩んでいた。リキ・スポーツパレス専務の宍倉久が筆者に語ったところによると、宍倉を、力道山はリキ・アパート8階の自宅に呼んだという。リキ・エンタープライズ専務の吉村義雄が、同席していた。力道山は、宍倉をあだ名で呼んだ。

「チビ、いままでおまえにはいわなかったけれども、おれは日本人じゃないんだ。そういったら、仕事ができるか、といわれると思って、いわなかったんだ」

「冗談でしょう。そんなこと、まったく関係ありませんよ。わたしは、力道山という人間のもとで仕事をしてるんです」

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力道山の韓国行きを手助けした児玉誉士夫 ©文藝春秋

 宍倉がそういうと、力道山は感慨深げな表情になった。

「韓国行きの話があるんだ。おれは、あまり気がすすまないんだが……。おれが韓国に行けば、新聞にはおそらく、『力道山故郷に錦を飾る』、なんて書かれるだろうな。おれは、人気が落ちるのはかまわないんだ。ただ、ファンの子どもたちが力道山にもっているイメージが、狂うようなことがあったら困る……」

 宍倉がいった。

「そんなこと、どうってことないでしょう。たとえ100人の子どものうち、50人が離れても、力道山の生き方を見て、やっぱり立派な人、強い人と思いなおせば、きっとついてきますよ」

 力道山は、肚を固めた。

「そうか、わかった。それじゃ、おまえのいうことを聞いて、韓国に行こう」

 ただし、極秘とされた。関係者には、籍口令が敷かれた。

次の記事に続く 「悪いけど、撃たなきゃなんねえ」拳銃を持ったヤクザに囲まれた“伝説のプロレスラー”力道山…そのとき彼がとった“思わぬ行動”《“日本一の右翼”児玉誉士夫との秘話》

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