異質なものを取り出す批評の面白さ
三宅 それから私自身、批評を読むのが好きで、学生時代に読んだ斎藤美奈子さんや宇野常寛さん、江藤淳さんや福田和也さんの文章に出会った時のきらめきが原体験にあります。でも、批評は今どんどん敵視されていますよね。布教しないとなくなってしまう危機感があるんです。だからまずは私の文章で慣れていただいて、次は本格的な批評に進んでもらえるような入り口を作れたらなと。
千葉 僕は三宅さんの『名場面でわかる 刺さる小説の技術』という本を面白く読んでいたんです。作家の文体批評を久しぶりにされている方だなと。いろんな名場面のピックアップの仕方が面白くて、その解説を読んでいくと、内容とつながる各作家の特徴分析が展開されていく。作家の文体からモジュールを取り出してきて、ある種のエモさの成立条件が暴かれたり、「刺さる文章」を書くための方法論構築とも読める。そしてその先には批評が見えていますよね。
そうやってみんなが隠すことで成り立っていた業界的権威性を白けさせるみたいなことを方法論的にやってしまうことが、僕は非常に好きなんですよね(笑)。
三宅 最近の千葉さんのお仕事で一番感動したのが、実は浅田彰さんの『構造と力』の解説文です。誰もよく分かっていなかったあの本を構造的に解体して見せる。「そういうことだったのか!」と感動しました。そうした作品の構造解析は現代にもっとあるべきだよなと思いました。
千葉 20世紀だったら、そういう構造論的な仕事がなされたうえで、じゃあ次の絵画はどうするのか、次の映画は、小説は、ということが議論されて作られてきた。それがいま浮いてしまっているように見えるのは、どんなジャンルも一度飽和してしまった以上、属人的なパワーで評価するしかなくなってしまったからかもしれませんね。
三宅 それでも、読む側としては、やっぱり作品と批評の両輪があってほしいです。いま、自分のアイデンティティを代弁してくれる作品を評価する人が批評家だというイメージを持っている人が多いと感じているのですが、自分と同じではないものの中にも面白いものはたくさんある。
千葉 異質なものをも取り出す、それが広く批評の仕事ですよね。
