換言すれば、作中に登場するさまざまな、かつそれぞれに違った色彩は、世界における生の息吹や、マーサとイングリッドの生命の灯のあらわれでもあり、そうした積み重ねによって、『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』は「死」への過程を描きながらも、「生」が色濃く顕現する作品へとなりえているのである。

 

本作に登場する「雪」、そしてラストの意味するもの

 また、最後に触れたいのは、本作に登場する雪のもつ意味である。それを考えるうえでは、先ほど言及した『死者たち』における、「雪は世界中にかすかに降り続ける。すべての生者と死者の上に」という一節がヒントとなる。

 本作における雪は、こちらも先述したようにその色味も印象的だが、同時に、生命の連環を言祝ぐ存在としても機能する。ふりかえれば、古来、冬の到来とともに地球のいたる所に舞い降りる存在であった雪は、数えきれないほど多くの生命の終焉、および誕生を見つめ続けてきた存在でもあっただろう。終盤、その雪を、マーサの血を分けた娘であるミシェルもまた見つめる。その彼女の表情のあらわれ、またイングリッドがつぶやく言葉から、ひとつの命は終焉を迎えても、また新たな命がつながっていくことが示唆される。

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 ここまで作品における、物語のかなりの筋に言及してきた筆者だが、このラストの詳細だけは触れない。ラスト、画面の奥からにじみ出る「生」のあたたかな感触は、じっさいの映画のなかで、ぜひ味わっていただければと思う。

〈ストーリー〉
 かつて戦場ジャーナリストだったマーサ(ティルダ・スウィントン)と小説家のイングリッド(ジュリアン・ムーア)は、若い頃同じ雑誌社で一緒に働いていた親友同士。何年も音信不通だったマーサが末期がんと知ったイングリッドは、彼女と再会し、会っていない時間を埋めるように病室で語らう日々を過ごしていた。治療を拒み自らの意志で安楽死を望むマーサは、人の気配を感じながら最期を迎えたいと願い、“その日”が来る時に隣の部屋にいてほしいとイングリッドに頼む。悩んだ末に彼女の最期に寄り添うことを決めたイングリッドは、マーサが借りた森の中の小さな家で暮らし始める。そして、マーサは「ドアを開けて寝るけれど もしドアが閉まっていたら私はもうこの世にはいないー」と告げ、最期の時を迎える彼女との短い数日間が始まるのだった。

 

『ザ・ルーム・ネクスト・ドア』  (原題:『THE ROOM NEXT DOOR』)
■監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
■原作:シーグリッド・ヌーネス「ザ・ルーム・ネクスト・ドア」(早川書房 刊行)
■出演:ティルダ・スウィントン    ジュリアン・ムーア
    ジョン・タトゥーロ
    アレッサンドロ・ニボラ
    ファン・ディエゴ・ボト
    ラウール・アレバロ
    ビクトリア・ルエンゴ
    アレックス・ホイ・アンデルセン
    エスター・マクレガー 
    アルビーゼ・リゴ 
    メリーナ・マシューズ 
■製作年:2024年
■製作国:スペイン
■映倫区分:G
■配給:ワーナー・ブラザース映画
■公式サイト:room-next-door.jp
■公式X:@warnerjp 公式Instagram: @warnerjp_official 公式TikTok:@warnerjp公式YouTube:@WBondemand 公式LINE:ワーナー ブラザース ジャパン
■コピーライト:©2024 Warner Bros. Entertainment Inc. All Rights Reserved. ©El Deseo. Photo by Iglesias Más.

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