集合離散を繰り返す犯罪集団「トクリュウ(匿名・流動型犯罪グループ)」による犯罪が数多く報告されている。闇社会に新たに登場した彼らは、どのようにヤクザからシノギを奪っているのか。

 ここでは『匿名犯罪者 闇バイト、トクリュウ、サイバー攻撃』(中公新書ラクレ)の一部を抜粋し、関係者の証言を紹介する。(全2回の1回目/続きを読む)

◆◆◆

ADVERTISEMENT

株式市場を荒らす新興仕手筋グループ

 離合集散を繰り返しながら、自らの存在を隠し、株式市場で仕手戦や会社乗っ取りを行うグループも、トクリュウの一つの形態と言ってもいいだろう。

 仕手戦とは、株式市場で特定の企業の株式を違法に操作して、価格を大きく変動させることで利益を得ようとする手法(仕手)が行われている状態のことで、こうした手法を使う投資集団や個人投資家のことを仕手筋と呼ぶ。株価を意図的に操作することで利益を得るため、株式市場においては「反市場的勢力」として問題視されている。

 日本の株式市場における仕手筋の歴史は古く、戦後の証券市場が再開された頃からその存在が確認されているという。特に高度経済成長期からバブル経済の時代にかけて、仕手筋は証券会社や銀行と密接に関わりながら、株式市場に影響を与える存在だった。先述の通り、バブル期には、暴力団が仕手筋の背後にいることも多く、金融機関と反社会的勢力が公然と結び付いていた時代でもあった。

©AFLO

 その後、暴対法や暴排条例によって暴力団は金融の世界から締め出され、暴力団が株式の売買に直接関与するケースはほとんどみられなくなった。また、金融商品取引法や証券取引規制が強化され、証券取引等監視委員会による、仕手筋をはじめとする不正取引に対する監視は厳しくなっている。

 しかし、株式市場における反社会的勢力の影響が完全に排除されたかと言えば、そうはなっていないというのが実情だ。

 バブル期のように暴力団組長が上場企業の株を大量保有することが公になるようなことはなくなったが、背後に暴力団の影のちらつく仕手筋や乗っ取り屋が、情報操作により株価を変動させ利潤を得たり、業績が低迷している時価総額の低い上場企業の株式を買い占めて「ハコ企業」化し、不正な資金調達を行ったりといった事案は現在でも数多くみられる。