ここで言うハコ企業とは、業績が振るわず、株価が低迷したことから経営権の奪取が容易になり、仕手筋などに乗っ取られた上場企業のことを指す言葉だ。仕手筋や乗っ取り屋は、まずハコ企業の株式を買い集め、経営陣に影響を与える地位を確立することを狙う。
そして、企業の経営権を掌握した後、当初からの真の目的に沿った行動を開始する。その目的とは、ハコ企業を利用した株価操作や、不正な第三者割当増資(特定の第三者に対して新株を発行することで資金を調達する方法)などによる資金調達である。当然ながら、その過程において株式市場への悪影響が及ぶことは言うまでもない。
新興仕手筋
現在の株式市場においても、そういった仕手戦や乗っ取りを繰り返す、新興仕手筋とも呼べるグループが複数存在しているのは明らかだ。
ある新興仕手筋グループに株式を買い占められ、不正な株価操縦に巻き込まれたベンチャー経営者が明かす。
「私が経営していた会社は、新しいテクノロジーに対するニーズの増加を受け、会社設立から10年経たずに株式市場に上場することができました。ただ、上場に向けてかなり野心的な事業計画を立てていたことと、海外の大手企業の日本参入が相次いだことで、あっという間に業績が悪化してしまいました。
当然、株価は大きく低迷し、元々いた機関投資家たちは、どんどん株を手放し、さらに株価が下がるという悪循環に陥ります。そんな時、新しく大株主になった投資家から、その投資家が持つ他の企業と事業提携を結ばないかと持ちかけられました。
その企業のビジネスモデルは当時流行し始めていたものでしたし、本業が低迷したことで、なんとか新しい事業を作ろうとしていた時期だったこともあって、私はその提案を受けることにしました。
しかし、提携が正式に締結されると、その企業の経営者の態度は一変します。それまで一緒に進めようと話し合ってきたプランに対して、様々な理由をつけて実行を妨げようとするのです。
そして、提携がIRとして発表されたことで、私の会社の株価は一時的に上昇したのですが、その間に大株主になっていた先の投資家は、全ての株を売り抜けていたのです。私は、その時になって初めて、株価操作のために会社が利用されたことを理解しました。自ら育てた会社をなんとか守ろうと必死になっていたあまり、目の前に現れた話を疑う勇気を持てず、自分に言い聞かせるようにして信じてしまっていたのだと思います」