ペットと幸せに暮らすために、どんなことが必要なのか。医療ジャーナリストの木原洋美さんは「犬猫以外の動物は『エキゾチックアニマル』に分類され、診られる獣医も、カリキュラムも整っていない。こうした現状を見直すことが必要ではないか」という――。
愛犬のお腹にハクビシンが噛みついていた
2024年10月の午後8時すぎ、神奈川県在住の女性は、住宅街を散歩中に愛犬(トイプードル)ともども野生動物に襲われた。
「暗がりを歩いていたところ、突然犬がキャンッと一鳴きして暴れ出したので見ると、お腹に細長い生き物が噛みついていました」(女性)
夜目にもはっきりとわかる白い鼻筋、キーキーという細く甲高い鳴き声、ハクビシンだった。愛犬はパニックを起こし、振り払おうと必死だが、ハクビシンは一度口を離すと今度は後ろ足に噛みついた。キャインっと鋭い叫びが上がる。
女性は瞬時にハクビシンの腹の下に足を入れ、すくい上げるように蹴り上げた。生き物が大好きなので、愛犬もハクビシンもケガをさせたくなかった。
「離れた隙に愛犬を抱き上げようとしたら、今度は私のひざに噛みついてきました。臆病な動物だと思っていたので驚きました。もしかしたらお母さんで、近くの草むらに子どもがいたのかもしれませんね」
元々森が点在していた地域だが、ここ2年の宅地開発で、小学校の校庭1個分の森が消え、そこで暮らしていたタヌキやハクビシンの家族が住処を追われたことを女性は不憫に思っていた。夜の散歩中に、何度も遭遇していたからだ。
スタジオジブリのアニメで、大規模宅地開発を進める人間に動物たちが戦いを挑む『平成狸合戦ぽんぽこ』(1994)というのがあったが、女性の住まいはまさに、あの舞台となった多摩丘陵にある。ハクビシンに罪はない。
軽傷であっても油断できない
ただ、野生動物に噛まれることは、たとえ軽傷であっても生命にかかわる。何より怖いのは感染症だ。
連休中で、しかも夜間だったため、愛犬はちょっと離れたところにある動物高度医療センターの救急外来に連れて行った。腹部に裂傷、両方の後ろ足に幅1cm、深さ5mmの傷を負っていた。幸い、腹部の傷は内臓には達しておらず、足の傷は小さな体にとっては大きいが、縫うまでではなかった。