なぜホアさんのような妊婦が、保護されなかったのか

 私たちが声をかけられた時点で、区の職員はすでに本人の希望通り、里親を探す方向で動き出していた。今は母子ともに容体が落ち着いていて、このまま問題なければ退院できるけれども、働くことは医師に止められている。しかし、働かないと家賃が払えなくなってしまうので、日越ともいき支援会で保護してほしいという依頼だった。

 住むところがなく路頭に迷っている妊婦がいたら、本来は国や自治体が保護するべきだと私は思う。厚生労働省所管である母子生活支援施設は、そのために用意されているものであるはずだ。それなのに保護の対象からこぼれ落ちてしまうのは、彼女が外国人だからだろうか。母子生活支援施設は、古くは、そして今でも通称として「母子寮」と呼ばれているが、1998年に現在の名称に変更されている。

著者の吉水慈豊氏

 配偶者がいるかどうかは問わず、離婚やDV、経済的理由などで生活困窮に陥った母子を保護して、自立に向けて保育サービスや就労支援などを行う施設となっている。入所できるのは、18歳未満の子どもとその母親で、原則として母子一緒に利用しなければいけない。妊婦も一時保護の対象になってはいるが、医療機関との連携が必要だったり何かとリスクが高いことから、受け入れが積極的に行われていない現状もあるようだ。

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 言いたいことはいろいろあったが、コロナ禍真っ只中で港区のシェルターには多いときで80人ほどのベトナム人が身を寄せていた。1人や2人増えたところで、こちらとしては大きな違いはない―。そう思い、ホアさんの保護を引き受けたものの、そのときの私はこれから起ころうとしているゴタゴタまでは、さすがに予想できていなかった。

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