深谷は再び、フッ化水素酸を注射器で吸い取り、今度はA子さんが通勤で履いていたスニーカーの左足の奥に吹きかけた。彼女は何も知らず、その日も普段通りにスニーカーに履き替え、車に乗って帰宅した。ところが約20分後、またも耐え難い激痛に変わって、病院へと駆け込んだ。
「これはおかしい。一度ならず、二度までも…。何か意図を感じる。薬品でもかけられたのではないか?」
不審に思った医師が警察に通報。まもなく警察の捜査が始まり、A子さんの靴などからフッ化水素酸が検出された。直ちに勤務先にも警察が行き、フッ化水素酸を仕事で使用していることや、その管理責任者が深谷であることを確認した。
A子さんは足の指をすべて失うことに…
「オレは知らない。疑いをかけられるぐらいなら、オレは管理をやめる。保管庫の鍵を預かって欲しい」
深谷は自らこんなことを言って、上司に鍵を預けた。だが、警察以上に疑念の目を強めたのは他ならぬA子さんだった。
「あの男に間違いありません。あの男に告白され、断ってから第1の事件が起こりました。靴の中にフッ化水素酸を仕込めるなんて、あの男しかいません。あの男を拒絶した後に、第2の事件も起きているんです」
A子さんは医師に「左足の壊死を食い止めるには、指を5本とも切断しなければなりません」と説明され、「それだけはイヤ!」と泣き叫んで拒絶した。右足のみならず、左足の指までなくなっては、生活に支障が出てしまうことは容易に想像がついた。
だが、「それでは全身に毒が回り、命を落とすかもしれません」と説得され、子どものために受け入れることにした。A子さんの左足は腐敗が進み、骨までメスで軽く切れたほどだった。
