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登楼禁止の情男が忍び込んだ結果…
引手茶屋への未払いがたまった客や、遊女と心中しそうな気配のある客に対して、妓楼は二階にあがることをことわった。つまり、登楼を拒否した。これを、客の側からは、「二階を止められる」といった。
若い者や遣手が目を光らせているので、二階を止められたら客はもう遊女に会うことはできない。手ぬぐいで頬被りをして顔を隠し、張見世に出ている遊女にそっと会いにくるしかなかった。
こうした仲を裂かれた男女の愁嘆場は戯作などに描かれている。
戯作『錦之裏』(寛政3年)に、二階を止められた情男(いろ)がひそかに忍び込み、花魁の部屋にかくまわれていたが、発覚する場面がある――。
花魁と情男がささやいているところへ、不意に遣手が現われて屛風を引きあけた。
「様子は残らず見届けた。わたしが顔を踏みつけて、なんで役儀(やくぎ)が立つものぞ。この通り内所へゆき、旦那さんに申しんす。これ、若い衆や、この男めを引きずり出したがよいわいの」
遣手の声を聞きつけ、数人の若い者が駆けつけるや、情男を袋叩きにした。
永井 義男(ながい・よしお)
小説家
1949年生まれ、97年に『算学奇人伝』で第六回開高健賞を受賞。本格的な作家活動に入る。江戸時代の庶民の生活や文化、春画や吉原、はては剣術まで豊富な歴史知識と独自の着想で人気を博し、時代小説にかぎらず、さまざまな分野で活躍中。
小説家
1949年生まれ、97年に『算学奇人伝』で第六回開高健賞を受賞。本格的な作家活動に入る。江戸時代の庶民の生活や文化、春画や吉原、はては剣術まで豊富な歴史知識と独自の着想で人気を博し、時代小説にかぎらず、さまざまな分野で活躍中。
