ホリエモンに「ひと言で言え」と詰められた理念
黒岩 いま「デジタル民主主義」という言葉が出ましたが、一般的にはちょっと捉えづらい概念かもしれません。私自身、最初にデジタル民主主義と聞いたときに、「なんか怖いな」という印象もありましたから。
安野 その問題ね、ホリエモンにもデジタル民主主義は何なのか、「ひと言で言え」と詰められました(笑)。端的にいうとこれは、「民主主義の意思決定のプロセスを、デジタルテクノロジーを使ってより良くする」という思想です。
代議制民主主義は200年くらいの歴史があって 、選挙で市民の代表者を選んで、議員たちに自分たちのかわりに討論してもらう仕組みです。つまり市民は、選挙で誰に投票するかでしか情報や意思を伝達できなかったわけですが、今であれば、少数派の困りごとや解決のアイデアもうまくすくい上げて議論の俎上にのせる仕組みを作れれば、社会全体の合意形成を円滑に行えるのではないかと考えています。
黒岩 なるほど。都知事戦で掲げていた「誰も取り残さない未来」、つまりすべての人の声を聞くプロセスがデジタル民主主義なら実現できる、と。
安野 そうです。僕はつねづね、少数派の人たちの声をうまく取り込める合意形成手段をもつ社会のほうが望ましいと思っています。例えば、ビジネスの世界では、超少数派でも変なことをする人たちがきちんと成功するメカニズムがある。Airbnbが誕生する以前は、自分のリビングルームを誰かに1日だけ貸す、みたいな行為って相当奇天烈だったと思うんですね。でもそういうことをやり始めた少数の人たちがいて、結果みんなにとっていいツールだよね、と世界中に広がった。
民主的な意思決定のあり方においても、少数派の一歩進んだ意見を取り入れることで解決できる課題がたくさんあると考えています。
デジタル民主主義は人間フレンドリーな方法論
黒岩 その実践が選挙期間中における「ブロードリスニング」だったわけですね。
安野 まさにブロードリスニングは、AIの大規模言語モデル(LLM)を使って、ウェブに溢れる様々な意見や批判や賛同をなるべく広く集めて整理して可視化する仕組みです。どの課題にどんな民意があるのか自動的に集約できるので、政治家や行政サイドがパンクすることなく少数派の意見も受け取ることができます。
さらにGitHubを使った政策プラットフォーム では、マニフェストをめぐる議論をオープンにして、多くの方々からのフィードバックを受けて、有益なものはどんどん採用して改善していくやり方を採用したわけです。集合知を積極的に意思決定に活かそう、というのがデジタル民主主義の姿勢です。決して怖いものではない。
