AIと飲み会に行ったら自動でポチポチと…

安野 最近とくに、日本の教育のやり方を抜本的に変えていかないとマズいと思ってるんですよ。電卓というテクノロジーが世に出てから暗算の価値が一変したように、AIでできることが急激に増えてきている今、本当に身につけるべき力は変化していますから。

黒岩 具体的にはなにが教育的に重要になってくると?

安野 AI時代には3つの力が必要だと思っていて、1つはコミュニケーション能力。人やAIに対して、自分はこう考えていて、こういうことをやりたいときちんと伝える能力です。自分の意図を正しく伝えてAIを使いこなすコミュニケーションスキルが非常に重要になってきます。

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黒岩 面白いですね。これから必要なのは、飲み会を盛り上げるようなコミュ力じゃなくて、自分がやりたいことをちゃんと伝える力だというのは。

安野 飲み会といえば……、実は先日AIと飲みに行ったんですよ。

黒岩 えっ、どういうこと!?

安野貴博さん

安野 最新のAIエージェント (人が設定した目標に対して、AIが必要なデータを自律的に収集し、そこからタスクを自己決定しながら目標を達成するプログラム)って本当に賢くて、最近の居酒屋は席にQRコードが置いてあってそれをスマホで読み取って注文するでしょ。そのQRコードをAIに突っ込んで、「適当に注文しておいて」って言ったら、みんなの分をポチポチと自動で注文してくれたんです。数分経つとリアルにAIが決めたメニューが出てきた(笑)。

 AIの分野は、「テキストtoイメージ」とか「テキストtoスピーチ」とかいろいろな変換ができるようになってきたけど、これはある意味「テキストtoフード」。みなさんも居酒屋にAIと一緒に行って、AIエージェントが生活のなかで使われる近未来をミニ体験したほうがいい。

黒岩 なるほどね、AIがお金を使う社会。

安野 AIが間違えて、いらないレモンサワーを3杯頼んだとしても、「これ、誰が飲むんだよ」って盛り上がるだけだから、大丈夫。そういうミスも含めて、来たるAIエージェント社会に向けて、居酒屋で慣れておいたほうがいいんです(笑)。

「不確実性に対する耐性」が大切

黒岩 その発想はなかったなぁ。他に必要な力は?

安野 2つ目は「これをやりたい」というモチベーションをもつ能力。AIはゴールに向けてすごいスピードで突き進めるけど、ゴール自体は人間が与えるもの。最初のwill(意思)を発動させるのは人間だから。

 そして、3つ目に大事なのが「不確実性に対する耐性」です。AGI(汎用人工知能)のようなとてつもなく賢いAIが出てくると、働き方や生活環境が激変するかもしれない。文明が覆い隠していた不確実性と、個々人で対峙せざるを得なくなるわけです。個人で背負うリスクの総量が、否が応にも増えていくと思う。

黒岩 それって、とても残酷な話で、「見えないものが増えていく」世界で個々の意思決定をしないといけないゲームだよね。どこまでリスクに対応できるかは、人によってかなり違う気がします。