「アジャイル型」vs「ウォーターフォール型」

黒岩 そうやって考えると、デジタル民主主義ってとても人間フレンドリーな方法論ですね。あとすごく面白かったのが、選挙期間中にマニフェストがどんどんアップデートされていったこと。

 私は普段本の編集をしていて、本は一度刊行したら基本的には修正できないメディアです。だから世の中に出してからもアップデートしていくプロセスはすごく新鮮でした。社会自体が目まぐるしく変わっていくなかで、やり方を柔軟に変えてもいいんだな、と。

安野 単一のチームが把握できる限界を超えて世の中は複雑化しているから、政策立案においても、リリースしたあとに良くない点に気づいたら、早めにアップデートするのが誠実だと僕は思っています。

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 ソフトウェアエンジニアの世界では、「アジャイル型」といって、優先順位の高いパートから、「設計→実装→リリース」を高速で回して改善を重ねていく開発手法が主流です。従来の「ウォーターフォール型」――最初の要件定義に何ヶ月も時間をかけて、全体の設計、製造を上流から下流に行っていくようなやり方では、変化のスピードに対応できない。マニフェストづくりもまた、現代のニーズにあった形でアップデートしていいと思う。

黒岩 そのあたりエンジニアならではの発想法だけど、おそらくチーム安野は日本で過去一番エンジニアの多い選挙陣営でしたよね。

安野 チームの一員として振り返ってみると、そういうエンジニアの動きをも含めてどうでしたか?

「最短距離で」「最適解を考える」エンジニアのカルチャー

黒岩 チーム安野は、マニフェストチーム、メディア戦略チーム、街頭演説や演説会などを仕切るチームなどにわかれていましたが、みなさん凄まじいスピード感で日々の激務をこなしていましたね。私自身、選挙戦の期間は本当に地獄で、日中編集の仕事をし、朝と夕方だけ会社を抜けて演説の手伝いをし、夜中にマニフェストづくりに勤しんでいたから、とにかく眠かったですね(笑)。

東京都知事戦での演説風景 ©安野事務所

 Slackを使ってチーム運営していたので、他のチームの動きがリアルタイムで見られるのですが、エンジニアの人たちが超速で動いている様子が伝わってくるけれども、書き込みを見ても私には内容が99%わからない。使う単語がまるで違っていて、異質なカルチャーに触れられて面白かったですね。なにか目的を達成するうえで、つねに「最短距離で」「最適解を考える」エンジニアの思考法は、見ていて気持ちがよかったです。

安野 普段エンジニアの人と共同作業をするって、なかなかないですからね。

黒岩 自分とは遠い職種の人たちと一緒に戦えたのがすごく刺激的でした。本書では、技術職の人たちの育成をふくめて教育政策についてひときわ熱を込めて書いていますね。