ぽっちゃり体型で映画『マネーボール』『ウルフ・オブ・ウォールストリート』で印象的な役を演じた俳優ジョナ・ヒル。その後、ダイエットし、今では別人のような見た目に。近年は半自伝的作品『Mid90s』で映画監督デビューも果たした。順風満帆に見えるが長年、体型コンプレックスや不安障害に苦しんだという。そんな彼を救ったのは著名な精神科医フィル・スタッツだった。その経験を多くの人に伝えたいと考えたジョナは自ら監督を務め、彼との対話ドキュメンタリー『スタッツ:人生を好転させるツール』(ネットフリックスで配信中)を制作した。患者が主治医を撮影するという珍しいスタイルだ。冒頭、ジョナはフィルにこう告げる。
「1日のセッションを映画に」
本作はまさにセラピーのような2人の対話が軸となって進む。年齢は70代で隠者のような佇まいのフィル。だが、発言は過激だ。うつ病の患者には明確にこう伝えるという。
「私の言う通りにしろ。回復を100%保証する」
彼は「ツール」と呼ばれる人生をより良くする考え方を患者に授ける。それは心理学というより「哲学」に近い。しかも、抽象的な概念を簡単な模式図にして描き、伝える。独自の「ビジュアルセラピー」と呼ばれる心理療法だ。そして、いよいよ具体的なツールの中身の話になるのだが……。
映画が始まり25分ほど経過したところで思いもよらない展開を見せる。監督のジョナが神妙な面持ちで吐露する。
「率直に打ち明けるべきだ。“2年”かけて撮影してるとね」
同じ服を着て、まるで1日のセラピーセッションを追ったかのように見せているが、実際は違った。嘘は他にも。
「あなたのオフィスではなく、グリーンバックの前でね」
一瞬で2人の背景がクロマキー合成用の緑の壁に変わる。ここからジョナだけでなく、フィルも自身の“弱さ”をさらけ出す展開となる。内容も演出も目が離せない意欲作だ。
INFORMATIONアイコン
『スタッツ:人生を好転させるツール』
https://www.netflix.com/jp/title/81387962
