一発の核ミサイルで世界は破滅する。人類の命運はわずか30分、いや20分弱で決まる。そんな恐ろしい“現実”を描いた映画が『ハウス・オブ・ダイナマイト』(ネットフリックスで配信中)。題名の「爆薬が詰まった家」とは大量の核爆弾がいつ連鎖的に爆発してもおかしくない中で暮らす人類の状況を表わした言葉だ。監督は爆弾処理班を描いた『ハート・ロッカー』で女性初のアカデミー監督賞を受賞したキャスリン・ビグロー。オサマ・ビン・ラディン殺害作戦を描いた『ゼロ・ダーク・サーティ』など、その作風は質実剛健。徹底的にリアルを追求し、目を背けたくなる現実を容赦なく観客に突きつける。
本作は一発の弾道ミサイルが発射される映像から幕を開ける。闇夜に響く轟音。どこから何の目的で発射されたかも明示されない。その正体不明の一発が30分後、世界を終わらせるとは誰一人想像していない。アラスカのミサイル迎撃基地の隊員やホワイトハウス危機管理室の職員さえも……。
「太平洋上でミサイル探知」
映画開始から約10分後、早期警報が鳴り響くが……。
「クリスマスから2度目か」
「いえ、3度目です」
偵察衛星が見逃し、発射地点は不明。だが、いつもの北朝鮮によるミサイル発射実験だろうと誰もが思う。
「ふん、お騒がせか」
安全保障会議が招集されるも緊張感は皆無。過去実験と軌道が一致し、日本海に落下すると予測。だが事態は急変する。ミサイルが通常の軌道を外れたのだ。
「現在の軌道では、米国内のどこかに着弾する」
米国を狙う核ミサイル? 一気に緊張感が高まる。着弾まで残り18分。すぐさまGBI(地上配備型迎撃ミサイル)の発射許可が下りる。だが、核ミサイルを迎撃できる確率は61%に過ぎない。国防長官が叫ぶ。
「500億ドルかけてコイントスと変わらないだと!?」
安全保障副補佐官は「弾丸で弾丸を撃つのと同じ」と、その難しさを説明する。しかも米国のGBI保有数は50発に満たない。追撃に備え、2発のGBIに全てを賭けるしかないという。だが、迎撃は失敗に終わる。
「次のプランは?」
「そんなものはない」
着弾地点はシカゴ。犠牲者は推定1000万人以上。数分前、女子バスケチームと面会しジョークを飛ばしていた米大統領は突如、究極の選択を迫られる。
「先制攻撃に出るか、ICBM100発が飛んでくるリスクを取るか。そうなれば我々の敗北は決定的です」
着弾まで残り7分。大統領は漆黒のファイルを示される。核による報復攻撃の選択肢(小規模・限定的・大規模)が書かれている。だが、判断に費す時間はない。
「初めて見る本だ。お薦めのメニューを教えてくれ!」
少佐は渋々こう説明する。
「火加減の種類はレア、ミディアム、ウェルダンが……。最低な例えですが」
大統領は当然、躊躇(ためら)う。
「何もしない選択肢は?」
「ありますがその場合、追加攻撃が無いのを祈るのみ」
一発のミサイルが生む混沌と絶望。起こり得る事態の重大さに目眩をおぼえる。
「大統領、ご命令を」
世界が終わる時、多くの人は何が起きたかも分からぬうちにその時を迎えるのだろう。戦慄の一作である。
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『ハウス・オブ・ダイナマイト』
https://www.netflix.com/jp/title/81744537




