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私たち自身ですら、いつの間にか109から遠ざかっていた

 2000年前後に主役級のブランドが出揃い、そのネームバリューが浸透して全国から客が通うようになり、さらに姉妹ブランド・派生ブランドが整備されたことで、109の売り上げは右肩上がりを続けていたが、それもジミーちゃんが渋谷を去る少し前の2008年ごろにピークを迎える。当然、ネットショッピング市場の急速な成長や、各テナント企業の地方進出が関係しているが、それと同時に相次ぐギャル雑誌の休刊・廃刊などに象徴される女子高生ブーム・ギャルブーム終息もまた、大きな一因ではあるだろう。

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 私は高校を卒業し、大学生になって大学院生になって社会人になっても、しょっちゅう109に流行りで安い服を探しに遊びに来ていた。その自負はあったのだが、実際、私もTも、いつのまにか新規の出店情報には完全に疎くなっていた。「この店かわいいね、初めて見た」と言ったTが入っていった店は調べてみればすでに開業して2年近くが経っており、私たち自身ですらその変化に気づかないほど109から遠ざかっていたのだった。

 エスカレーターで上から下までぐるぐる回ってみる。かつてここに入り浸っていたTや私に比べて、今も主力の客層である女子高生や女子大生たちのファッションはとても小綺麗で、「ここは私たちの場所!」というようなやや行き過ぎた主張も感じられない。ジャンルも実に様々で、スニーカーを履いているOL風の20代女性、海外ブランドの高級パンプスを履いた女子大生、三つ編みの女子高生、中学生らしき女の子とカジュアルな格好のママの親子。排他性がない代わりに、ここでしか見られないほど尖った光景もないような気がした。

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 中国人観光客の増加など、やや上向きな要素はあるものの、全体の約1割である外国人客の取り込みだけでは、大きな花火がなんども上がるような熱狂を取り戻すには至らない。圧倒的なブランド力で右肩上がりを続けて来た売り上げも、2008年をピークに低迷している。かつての運営会社である東急モールズデベロップメントから、109事業が切り離され、新会社としてようやく本格的なテコ入れを始めたのは2017年だ。安室奈美恵ショップなど期間限定のイベントショップが企画される8階や、インディーズブランドなどが比較的容易に短期間の出品ができる地下2階などに、新たに直営の区画を整備した。

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 それはそもそもバブル崩壊や老舗ブランドからの敬遠で、裾野を広くして時代を切り開いて来た109の歴史を踏まえた方向性でもある。

「2008年をピークに圧倒的な独自性が失われていった中で、もう一度独自性を取り戻すとなったら、Bunkamuraや旧東急文化会館など立派な檜舞台がある渋谷の裾野を広げる立ち位置、つまりは原点である若者との接点としての役割で、大きな再開発の下支えをしていく必要はあると思います」

 木村社長は、アパレルにとらわれず、ブロードウェイに対するオフ・ブロードウェイ、オフオフ・ブロードウェイのような小さな檜舞台を作っていくと前を向く。それはかつて10坪の空きスペースから、雑誌で何ページも特集されるほどのブームを巻き起こした109らしい野望でもある。

「あまり過去の成功体験にとらわれず」

 とはいえ、渋谷に若者を呼び戻すハードルは高い。ものを買うという消費行動それ自体の形が大きく変わっている中で、人を家から出し、街に呼ぶという時点でものすごくパワーのいる作業であるし、そもそも90年代と現在とでは、消費に対する熱狂も経済的な余裕も段違いである。

 私が日本経済新聞社の記者だった頃、東急電鉄グループの「名物広報」だった矢澤史郎さんに久しぶりに会えた。とても現実的な彼の、「あまり過去の成功体験にとらわれず」というシンプルな言葉がやけに重い。確かに、ヤマンバたちが全員同じブランドの服を買いに押し寄せていた渋谷を念頭にこれからの時代をデザインはできない。

 海外のサイトでは、観光客たちが撮影した渋谷スクランブル交差点の画像が人気を集めている。かつての中学生の私がそうだったように、どうやら彼らにはなぜこんなに大量の人が四方から歩いて来て、誰にもぶつからずに横断できるのか、不思議でしょうがないらしい。

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「魔術のようだね」「これって何かの抗議集会?」「押しつぶされそうで怖い」なんていう冗談と本気の驚きが混ざった感想コメントの中に、「どこが人口減少社会なんだ?!」という書き込みを見つけて思わず顔がほころんだ。今や15兆円以上とされるネットショッピング市場は確かにここ5年だけでも倍増し、スマホでエンタテイメントが完結しているし、経済的な勢いもない。

 ただ、私たちは少なくとも工事中でチグハグな渋谷に、外国人が驚愕するほど、今も出かけている。今も渋谷は、イライラするほど混んでいて、歩き慣れた私も思わず人にぶつかった。