それに、基本的には住宅街なのだ。
「そう、このへんはもう住宅地やね。上町で、中央区やからな。家賃もみんな高いし、人通りが少ない、昔から。晩なんかほんま歩いてないの、ここだけやもんな。ここの人らは来いへんな、ほんまに。もう祭日とか日曜日なんかめちゃくちゃ暇やもん。やっぱり商売は、柄の悪いところのほうがええもんな。やっぱそれは金持ってる人がおるのかしらんけど」
「値上げしたらな、絶対きっちり離れるで。いったん離れたらもう来いへんわ」
いまでは出前も減り、そこに物価高が追い打ちをかけた。
「去年1年間あかんかった。もう材料がむちゃくちゃ上がってるもん。ほな、100円が200円、倍ぐらいになるねんで。油でも片栗粉でも、えげつないで。奉仕ちゃうからなあ。うちら、もうごっつい安いわ、ほんまに。そんでもええことあらへん」
切実な思いであるに違いない。やはり、そうも思いたくなる時代なのだろう。
「みんな締めてるんや、金遣い。サラリーマンはおこづかいでめし食べられん。そりゃ金持ってるやつは関係ないけどな、このへんの人やったらみんなサラリーマンやから難しいわ」
値上げしたくても、上げてしまえば客足は減る。客の給料も小遣いも上がっていないのだから当然の話なのかもしれない。
「値上げしたらな、絶対きっちり離れるで。いったん離れたらもう来いへんわ、だいたい。だから、どこでもみんな値上げしたいけどできん。いまやって、もうラーメン1000円の時代やもんね。そやけど、ラーメン屋はやってられへん」
手間をかけた“澄んだスープ”へのこだわり
だが、“ラーメン1000円の時代”に、ここでは550円なのである。「前、500円でやってたんや」と笑うが、とんこつと鶏ガラでだしをとったというそのラーメンはとてもおいしい。
「あっさりしとるやろ。全然くどうない。とんこつも入っとるけど、だいたいガラやもんな。とんこつの香りはあんまりせん」