高野氏「原作にない場面で感動しました」

 観客から、原作との違いについての質問が出ると、まずイ監督がこう答えた。

「舞台を韓国に変えてローカライジングすることと、原作を執筆されたときから時代も変化しているので、それに合わせて韓国の現況を入れ込むなどしました。私は長く日本で仕事をしていて、2年ほど前に韓国に戻ったのですが、韓国の現場のほうが年齢が若い人が多いんです。彼らを見て、今の韓国の若者が、競争が激しい社会の中で先行きが見えない生き辛さを抱えていることを知りました。高野さんの原作を読んで、登場人物にそういう部分を重ねていけば、普通のジャンル映画よりも、登場人物が運命に立ち向かう姿により共感を持ってくれるのではないかと思いました」

イ監督(中央)と高野氏(右) ©文藝春秋

 ヒロインのジョンウはその日に30歳になったフリーターで、いくつもバイトを掛け持ちして働いても貯金すらままならない。そのためデートクラブで働いた過去もあった。高野氏は、

ADVERTISEMENT

「自分がこの映画を観ていちばん感動させられたのは、原作にはなかったヒロインの設定です。この映画、原作にない場面が素晴らしい映画なんです(笑)。自分が原作者でなくてもこの映画の大ファンになっていたと思います」

 と語り、最後に、これからこの作品を観ることになる日本の観客に向けてメッセージを送った。

「エンタテインメントとしても楽しめますし、真に迫った人間ドラマとしても感動できる作品だと思いますので、ぜひ劇場でご覧ください」

日本の推理作家・高野和明の同名小説を韓国で映画化。30歳の誕生日当日、ジョンウ(パク・ジュヒョン)は道ですれ違った男(ジェヒョン)に、「君は6時間後に殺される」と告げられる。半信半疑のジョンウは、男と行動を共にしていくが……。プチョン国際ファンタスティック映画祭・観客賞受賞。監督は日本映画学校(現:日本映画大学)で今村昌平監督に師事した、『雨時々晴れ』(OAFF2015)のイ・ユンソク。

監督:イ・ユンソク/出演:ジェヒョン、パク・ジュヒョン、クァク・シヤン/2024年/日本・韓国/91分/配給;クロックワークス/©2024,Mystery Pictures,ALL RIGHTS RESERVED/5月16日公開予定

次の記事に続く “笠智衆推し”の女子高生がこじらせる映画への妄想とは? 現役高校生が撮った120分の青春群像劇『レイニー ブルー』