精神保健福祉法26条の内容を要約すると、こうなる。
矯正施設の長は、精神障害者またはその疑いのある受刑者が出所する時は、あらかじめ、本人の帰住地(帰住地がない場合は当該矯正施設の所在地)の都道府県知事に通報しなければならない。
何を目的とした通報なのか。それは、通報を受けた自治体側が、対象となる出所者を医療機関につなぐためのものであろう。しかし、実態としてはどうか。残念ながら、自治体が動いてくれることはほとんどない。
『矯正統計年表』によれば、2023年の出所者総数1万6233人のなかで、3537人が、帰住地の自治体に26条通報されている。だが、そのうち医療につながったのは、わずか51人に過ぎない。
その少なさもさることながら、やはり何よりも驚かされるのは、通報者の多さではないか。3537人というと、全出所者の約22パーセントだ。刑務所側は、出所者の5人に1人以上が、精神障害やその疑いのある者と判断していたのである。
障害のある人、高齢者の割合が高い
精神障害者だけではない。刑務所内には、知的障害のある人たちもたくさんいる。
日本の刑務所では、受刑者となった者は、まず知能指数の検査を受けなくてはならない。『矯正統計年表』に、その結果が記載されている。2023年の新受刑者総数1万4085人のうち、2割以上が知的障害を表すIQ69以下の者ということだ。
もちろん、一人が両方の障害を抱えている場合もあるだろうから、単純に、受刑者の4割以上に精神障害や知的障害がある、とはいえない。でも、その割合が、一般社会とは比にならないほど多いことは確かである。
精神や知的に障害のある受刑者は、mentalの頭文字をとり、「M指標受刑者」として、医療刑務所や医療重点施設で処遇されていた。また、一般の刑務所でも、多くの受刑者がスモールM、すなわち「m指標受刑者」として服役している。川端さんも、その一人だった。
我が国の刑務所は、高齢化率も、世界の国々のなかで突出して高い。日本社会全体に占める70歳以上の人たちの割合は、この20年の間に、約2倍になったが、受刑者全体に占める割合では、約5倍に膨らむ。