刑期満了日、妹が兄を迎えに来てくれた
高齢者や障害者で溢れる我が国の刑務所──。今や刑務所というところは、福祉の代替施設と化してしまっていた。私の知る限り、高齢受刑者や障害のある受刑者の多くが、寄る辺のない身だった。出所したとしても、頼るべき人がいないのである。
では、あれから川端さんがどうなったのか。それについては、後日、あの年配の刑務官から報告を受けていた。
「いやー、ほんまに良かったです。出所間際になって、妹さんから手紙が届きましたんですわ。で、急転直下、引き受けオッケーやと……。刑期満了の日は、妹さん、遠くからやのに、ちゃーんと迎えに来てくれましてね、川端と向きおうて、『兄ちゃん、長い間、お疲れ様』て、目え……、目え潤ませながら言うとりました……」
そう話す刑務官の声も潤んでいる。
「川端も大人しゅう、妹さんについて帰りましたわ。やれやれでした。せやけど、一番喜んどったんは、川端のおった工場の工場担当です」
受刑者のために心を砕く刑務官たち
工場担当というのは、受刑者処遇の中心を担う立場の刑務官だ。受刑者から「おやじ」と呼ばれることも多い。
「山本さんは、気づきはりましたか、2回目の面談時のあの石鹸の匂い。1回目の時、川端の体、えげつない臭いしてましたでしょ。せやから工場担当、山本さんが嫌な思いしたんやないかって、えらい心配しとったんです。『帰住先わざわざ探してくれはる方やのに、あの臭いで気分害されたんとちゃうか』って、そない言うてましたわ。ほんで結局、2回目の面談前は、工場担当自ら、風呂場まで連れて行って入浴させたっちゅうわけです」
現場刑務官は皆、受刑者の円滑な社会復帰を願っている。川端さんの件では、その一端を知ることができたようで、私自身、嬉しくも頼もしくも感じた。
救われなかった人たちが次々と塀の中へ
川端さんについてはひと安心したが、それは稀な例だと思う。高齢受刑者や障害のある受刑者のほとんどは、福祉のみならず、家族からも見放された存在となっているのである。