罪を犯した人が社会復帰するには、どんな苦労があるのか。作家の山本譲司さんは衆議院議員時代に起こした秘書給与詐取事件で実刑判決を受け、現在は出所者の社会復帰支援に取り組んでいる。そんな山本さんが上梓した『出獄記』(ポプラ社)より、一部を紹介する――。(第1回/全3回)

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社会へ戻ろうとする50代前半の受刑者

ある夏の日のことである。私は、一人の受刑者と会っていた。場所は、刑務所内の会議室だ。狭い面会室とは違って、間を仕切るアクリル板もなく、開放感のある部屋だった。

ひと月半後に刑期満了を迎えるその川端要三(仮名)さんとの面談は、これが2回目だ。彼が入室した時から、部屋の中に、石鹸の匂いが漂っている。きっと、入浴を終えたばかりなのだと思う。

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外は晴天だった。窓からの陽射しが、川端さんの顔面を照らし、深く刻まれた皺を強調する。白髪に覆われた頭部は、銀色に光っていた。彼の年齢は、50代前半。にもかかわらず、その外見からして、とうに還暦を過ぎた老人のように見えた。

長方形のテーブルをはさんで、二人と向き合っている。川端さんの横に座るのは、審査保護係という社会復帰担当の刑務官だ。

私は、笑顔をつくりながら、話を切り出した。

「川端さん、見つかりましたよ。この前お会いした時に約束した通り、ここから出たあとに生活できるところを見つけてきました。きょうは、その報告にうかがったんです」

「出所後は、ホワイトハウスで暮らす」

途端に彼は、落ち着かない様子になった。視線を左右にせわしなく動かし、それから、声を潜めて言う。

「内緒の話だども、きのうCIAがら知らせ受げだんだ。こごがら出だあどは、バイデンさんのスタッフが迎えに来てけるようになったんだ。んだもんて、もう山本さんに面倒みてもらわねでも良ぐなった……。出所後は、ホワイトハウスで暮らすこどになるんだども、まわりは優しぇ人ばがりのようだ」

言い終わらぬうちに、溜め息が聞こえてきた。溜め息を吐いたのは、目の前の刑務官だ。