なぜ人間は調教の関係性に惹かれるのだろうか?
人が調教の関係性に惹かれる一因には、羞恥心の問題が大きいといわれる。こんなにも恥ずかしい行動を、体位を、肉体をあなたにだけは見せることができると。そこには互いの信頼関係がなければ成立せず、一対一の駆け引きでこそ成り立つパワーゲームだ。ロミーは家族も仕事も失いかねない危険なゲームに身を投じ、スリルを十二分に味わうのだが、彼女の理性をなし崩しにするのがサミュエルから耳元で囁かれる甘美な“BABYGIRL”の呼びかけである。
欧米の出版社は2000年代から、大人の女性がタフな状況に陥って戦う小説のタイトルにあえてGIRLと名付ける流れがあり、代表格がミレニアムシリーズの“The Girl With the Dragon Tattoo”(ドラゴン・タトゥーの女)、や映画化された『ガール・オン・ザ・トレイン』(原題 “The Girl on the Train”)になる。男性社会や男性の眼差しや価値観に侵されない、大人の女性が最後の砦のように大切にする少女性をGIRLと呼び、本作では幼くしてロミーが保持していた彼女の性的指向を象徴する。演じるニコール自身がパワーのある女性だからこそ、社会的な地位を得て、年齢を重ねようとも、壊されまいとする少女の欲望が切実に見えてくる。そこに気づかない男性たちが劇中のアントニオ・バンデラスのごとく、しっぺ返しを食らう内容であることが、女性主導の企画の爽快さに繋がっている。
INTRODUCTION
舞台はニューヨーク。成功した女性CEOが若きインターンに秘めた欲望を嗅ぎ分けられ、力関係が逆転していく様をスリリングな展開で描いた。満たされない渇きを抱える主人公のロミーを演じるのは、ニコール・キッドマン。ロミーを誘惑するインターンに、『逆転のトライアングル』などのハリス・ディキンソン。ロミーに深い愛情を捧げる夫に名優アントニオ・バンデラス。『氷の微笑』など90年代のセックススリラーを参考にしたというハリナ・ライン監督による女性視点からの新たなセクシャル・ムービー。
STORY
起業家として成功したロミー(ニコール・キッドマン)は、優しい夫(アントニオ・バンデラス)と2人の娘と、誰もが羨む暮らしを送っていた。ある日、ロミーが路上で大型犬に飛びつかれそうになった時、若い男が一瞬で犬を落ち着かせた。彼の名はサミュエル(ハリス・ディキンソン)、ロミーの会社の新しいインターンだった。その日から、ロミーは彼から目が離せなくなる。2人きりの面談で、サミュエルは、「あなたは権力欲が強いのではなく、むしろその逆で命令されるのが好きなはずだ」と言い放った―。
STAFF & CAST
監督・脚本:ハリナ・ライン/出演:ニコール・キッドマン、ハリス・ディキンソン、アントニオ・バンデラス/2024年/アメリカ/114分/配給:ハピネットファントム・スタジオ/© 2024 MISS GABLER RIGHTS LLC. ALL RIGHTS RESERVED.
